研究課題/領域番号 |
24560483
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
常川 光一 中部大学, 工学部, 教授 (40434568)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ワイヤレス電力伝送 / アンテナ / 電界結合 |
研究概要 |
・基本検討 電磁界共振結合形による電力の伝送では高いQのアンテナ実現が難しく限界があるため、電界結合により空間の局所的な2点に電位差を発生させる電力伝送方法を提案した。これは単純に金属板同士の静電結合(コンデンサ)2つを用いて電力を伝送するものである。すなわちアンテナ素子を2つのコンデンサの電極と考え、それぞれを独立になるような経路を用いて電位差(ポテンシャル)を伝送するのである。回路的検討により数平方cmの電極を1m程度離した非常に小さなコンデンサでも、伝送位相差を利用して独立な2つの経路を実現すれば30%程度の伝送効率が得られることがわかった。 ・伝送効率の検討 そこで具体的なアンテナを設計しシミュレーションと実験を行った。コンデンサとしての結合を強くするため対向する平板金属でアンテナ素子(電極)を構成した。このアンテナ素子を二枚平行に配置し、各素子を出来る限り離してかつ高インピーダンスと50Ω給電系との整合をとるためにテーパ給電線路を用いた。アンテナ素子は遠方界の放射を抑えるために方形金属の中心に給電線を接続し素子上の電流が相殺するようにした。実験では金属地板によりイメージ法を用いて不平衡系での測定を行った。伝送効率の距離特性を計算および実測したところ約50mmの間隔(1/10スケールモデル)でシミュレーションは約30%、実測は約15%となり、まだ従来の電磁界共振結合形に比べて高い効率を得ることは出来ていない。しかし本構成は電界結合形なのでアンテナ素子は金属板を用いているため導体損失の影響が少なく、シミュレーションに近い値が実装置で実現できると考えられる。ただしこの構成では電極間の結合が相殺出来ていないこと、及び電極を離すことで不要な放射界が発生して損失になることが本結果となった要因と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調にシミュレーションおよび実験を遂行している。特にシミュレーションにおいては波長に比べて非常に小さなアンテナであるため、その数値的誤差が大きく値の精度は良くない。このため主に傾向を把握し設計指針を得る目的で利用している。すなわち正確性を求めることなく、アンテナ構成の改良や修正の方向性を決めるために用いることとしている。一方実験は平衡系給電モデルに対して、大型の金属地板を用いてイメージ法によりアンテナを構成することで不平衡系での実験を可能とした。ただし半空間のみの実験のため効率は二倍になることに注意して実験を行っている。ただし利用形態として同じ環境(金属机上など)になれば、本実験よりかなり効率は高い値を得ることができる。 課題である効率向上にはさらに斬新なアイデアと設計概念が重要であるが、今年度中ではこの点はまだイメージに留まり、具体的構成として明確化出来ていない。一方、本課題のオルタナティブとして磁界結合型のヘリカル構成も並行して検討しており、この手法の検討にも時間を要している。電界型に固執せず両者を比較して優れたものを開発していく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
・高効率独立経路の実現手段:効率を上げるため、超小型共振型の非放射アンテナの開発と空間分割伝送路の実現を目指す。特に今年度購入した基板加工機を用いて細密加工を行い、小型コンデンサを並列接続することで共振回路を構成する。電力伝送では情報伝送のように伝送路の線形性は不要であるが、ポテンシャル(電位)を効率良く伝送する手段として最適な方法と具体的構造を検討する。 ・実験的検討:シミュレーションにより設計した非放射ダイポールアンテナを試作し実験的検討を行う。非常に低い周波数でかつ材料の電気パラメータが正確に把握できないこともあり、シミュレーション設計と実アンテナは最適パラメータが違う。このため実装置の効率が非常に重要なので、製造可能な材料によりアンテナを作製し伝送実験を繰り返り行う。また50Ω系装置での実現性やスプリアスの発生状況も確認する。 ・電気自動車用充電装置の検討:空間分割伝送路を比較的容易に実現するには電極を離すことであるが、この構成では伝送距離が十分取れない。この構成に適した実用装置は電機自動車用充電装置である。そこで本装置の開発を目指し、少なくとも80%以上の高効率伝送を目指す。 ・受信アンテナの自由度を上げる検討に入る。実使用状態では受信側は任意の位置に存在するため、これによる効率の劣化量とアンテナ給電位相の制御による改善可能性を探る。シミュレーションと実装置の相関を考慮した上で制御方法を検討し、実験により確認を行う。 ・試作検討:電機自動車用充電装置をまず試作する。さらにユビキタスシーリングライトへの組み込み方法を検討し試作する。この場合の目標は2mで数百mWの伝送である。特にアンテナ構造と電力系と情報系の信号干渉や通信用アンテナとの共用の可能性を検討する。またこれらをデモ装置としてPRをすると共に、既存無線装置への影響を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
・ネットワークアナライザ:アンテナ設計、伝播特性測定、電力伝送効率の測定において必須である。既に1台所有しているが、複数の研究を平行して効率良く行うために必要である。 ・MEMSスイッチ、電子部品等:時間分割による独立経路の構築を検討する上で高速にスイッチ動作をするMEMSスイッチやその制御回路などが必要になる。伝送効率の検討においても電子回路を作製して実験することになる。 ・電波吸収体/吸収壁等:これらで電波暗室を補強することで性能向上を図り、実験精度を上げると共に外部への電波漏洩を完全に遮断する必要がある。 ・試作費用:電機自動車用充電装置伝送をまず試作する。さらにユビキタスシーリングライトへの組み込み方法を検討する。これらの試作について一部外部への発注を行う。 ・学会参加費など:本研究は多くに方の意見を取り入れて進める必要があるため、積極的対外発表を行う。さらに本成果は論文としてまとめ、別刷りを作成/配布してPRを図る。またシステム試作、要素技術試作のための技術打合せも必要となる。 なお、平成24年度の実験が効率よく進んだ結果、消耗品の支出が予定より少額となった。このため24年度に予定していた物品の購入は、平成25年度研究計画の予算と合わせて前半に予定することとした。
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