今年度は、ヒト頭部後方散乱光パルス波形の理論値と実測値の比較からヒト脳光学パラメータを推定する時間領域拡散光トモグラフィ(Time Resolved Diffuse Optical Tomography: TRDOT)について、以下1~3に示す基本的な性能を検証した。光パルス波形理論値は、昨年度までに構築した脳溝と頭表の屈曲を考慮した現実的なヒト頭部モデルのFDTD解析を用いて計算した。また、実測値は、頭表屈曲形状と平均遅延時間の関係が明確に確認された一人のボランティアのものを用いた。 1.TRDOTによるヒト脳診断可能性・・光パルス波形理論値と実測値の自乗残差最小値を与えるヒト頭部の光学パラメータを共役勾配法により用いて推定した。その結果、光吸収係数は、頭皮及び頭蓋骨から成る頭表組織と灰白質及び白質から成る脳組織を分離して同定可能なことを明らかにした。また、白質を除く各組織の等価光散乱係数も同時に同定出来ることを明確にした。平均遅延時間や2次モーメントの等の統計量でなく光パルス波形そのものから散乱体と非散乱体が混在して形状が複雑なヒト頭部の光学パラメータを推定した例は他に類を見ない。 2.TRDOTにおける光パルス実測値の遅延時間補正誤差許容値・・光パルス実測値の測定系による遅延補正は必須であり、前項の例につきこれを見積もった。その結果、光学パラメータ推定値に±10%の誤差を許容すると、遅延補正誤差許容値は20 (ps)であり、計測器の現状性能を考慮すると容易に実現可能なことが判明した。 3.光パルス波形サンプリング間隔(delta_t)と光学パラメータ推定誤差・・delta_tを約20psから80psまで変えても光学パラメータ推定値の劣化は無視出来ることが分かった。delta_tを粗くしても遅延補正は前項の条件を満足出来ることから、この結果は実際のTRDOT装置構成の簡易化の可能性を示す。
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