本研究の目標は,大規模・複雑化した系のグローバルな状態情報を,ローカルなセンシン グによって獲得する方法論を確立することにあった.そのために,まず,対象内での情報の流れの構造を的確に,かつ,効率的にモデル化する新しい体系が不可欠である.次に,各ローカルなセンシングによって,どれだけのグローバル情報を獲得できるのかの定量化が必要である. 本研究では,1.大規模系の情報の流れの構造をグラフを用いてモデル化するとともに,2.そのグラフ内の実際の情報の流れを,申請者が開拓,提唱し,確立してきた「センシング情報学」に基づいて定量化し,3.それらに基づいて,具体的な大規模なシステムに対して,ローカルなセンシングによってシステムのグローバルな状態情報を獲得する例を提示する. 26年度も,具体的な対象として,前年度までの研究活動に引き続き,東日本大震災関連の被災と復興に関する広域での都市部の画像データの収集と処理を行ってきた.こうして得た大規模間画像列を元に,市街地を時空間的にモデリングする方法を研究した.市街地の幾何学的,地理学的な時間変化そのものを可視化すると同時に,変化の意味を理解することが目標であった.すなわち,少数の観察から,街全体のどこがどのような被害を受け,何を失ったのか,そして,そこからどのように何が復旧,復興してきたのかを捉える方法を検討してきた.この研究では,コンピュータビジョンの手法を用い,街路から見た全周囲画像から市街地の営みの変化を意味的に理解しようとする.現在,本研究の間に取得した画像データは,約55テラバイトの大量なものとなっている.今後,本研究で確立した手法を元に,アーカイブ化を図っていき,地上でのローカルな継時的な観測から,都市全体の経済活動の盛んさと人や物資の動きに至るまでのグローバル情報を定量的に捉えるシステムを構築する予定である.
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