悪条件線形方程式に対する数値計算法は、密行列に対しては特異値分解法をもととした方法が主流であるが、特異値分解は計算量が多いという欠点を持つ。そのため、大規模問題への適用は困難が伴うことになる。それに対して、特異値分解よりも計算量の少ないQR分解をもとにした数値計算法も近年提案されており、その有効性も数多く報告されている。また、密行列に対しての数値計算は高速化の観点からブロック化手法を用いるのが一般的であり、ブロック化手法との相性という意味でも、特異値分解よりもQR分解の方が優れているとも言える。本研究では、行列のQR分解を行うための数値計算法であるグラム・シュミット法に新たなるブロック化手法を提案した。この提案法では、グラム・シュミット法のブロック化を再帰的に行う方法であるが、従来の再帰的ブロック化グラム・シュミット法とは異なり、ブロック内部のQR分解に対して、再帰的なブロック化コレスキー分解法を用いることにより、従来法に比べて高速化が行えることを示し、その有効性を数値実験を用いて検証した。さらに、本方法は理論的にはグラム・シュミット法よりも計算量が少ないブロック化ハウスホルダー変換を用いたQR分解よりも高速にQR分解が行えることが確認された。これにより、より大規模な悪条件線形問題に対しても、安定で高速な数値計算法を構築するための有用な手段を提案できたと思われる。
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