研究課題/領域番号 |
24560519
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
小澤 賢司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (30204192)
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研究分担者 |
木下 雄一朗 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (70452133)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | マイクロホンアレイ / ニューラルネットワーク / 遺伝的アルゴリズム / ソフトコンピューティング / 指向性 / 瞬時音圧分布 / 学習パラメータ / 最適化 |
研究概要 |
本研究は,高次コミュニケーションシステム構築に必要となる音響信号の空間分離収録技術に関して,ソフトコンピューティングの技法を駆使することで格段の性能向上を達成することを目的としている. そのために,ニューラルネットワーク(以下NNと略記)を組み込んだマイクロホンアレイシステムについて,システムの最適化をNNの学習パラメータを遺伝的アルゴリズム(以下GAと略記)を用いて探索することで実現した.平成24年度は,音の伝搬を瞬時音圧分布の空間パターンと捉えた従来システムを取り上げた. NNの構造としては,入力層ニューロン数はマイクロホン数と同じ6であり,また中間層ニューロン数も6とし,出力層は「音の時系列」を出力するので1とした.このアレイシステムについて,単一周波数 (1.7 kHz) の正弦波を用いて,アレイと直交する方向(正面方向)に指向性を合成することとした.最適性の指標となる評価関数としては,「入射角0°についての出力パワー」/「入射角5°~90°についての出力パワーの和」という比を用いた.これにより,メインロブの幅が5°未満という鋭い指向性を得ることを目標とした. 最適化の対象とするパラメータは,学習速度を決定する係数,シグモイド関数の温度係数,学習精度に関する目標値,入力層-中間層の重み係数の初期値,中間層-出力層の重み係数の初期値,ニューロンへのバイアスの初期値の6種類とした.遺伝子構造としてはこれら6種類の実数を並べた実数値コーディングを採用した.1世代の遺伝子の個体数を100とし,各個体を設定したNNを用意して学習を行わせた. 以上により得た最適解を設定して学習を行ったNNを用いたシステムについて,指向性特性を観測した.正弦波に関して,最適化によって先行研究よりもサイドロブを10~15 dB低減することができた.AM音に関しても5 dB程度の改善が見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり,ニューラルネットワークを組み込んだマイクロホンアレイ信号処理システムを計算機上に構築し,遺伝的アルゴリズムを利用して効率的な最適化を実現した.これにより先行研究に比べて十分な指向性特性の改善を実現した.
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今後の研究の推進方策 |
瞬時音圧の空間分布は入射角と周波数の両方に依存するので,平成24年度に実施した単一周波数正弦波を用いた検討では,指向性が保証されるのは「学習に用いた正弦波の周波数」に限定されるという問題がある.この問題を解決するために,平成25年度は,瞬時音圧分布の空間パターンが時間と共に変化する「時空間パターン」に関するシステムを構築する. 具体的には,マイクロホンからの出力を1サンプル時間だけ遅延させた入力系列も用意し,前年度と同様にNNの最適設定をGAにより探索する.NNの構造としては,入力層ニューロン数はマイクロホン数の2倍(現時刻と1サンプル過去)の12であり,また中間層ニューロン数も12とするが,出力層はやはり「指向性を向けた音源の時系列」を出力するのでニューロン数は1である.ここで,遅延器の出力は「時間軸上で1サンプル前の空間パターン」であるので,マイクロホンに沿っての音圧分布とあわせて時空間の2次元パターンを学習することになる.時間軸に沿っての学習パターン数としては,標本化周波数を8 kHzとし学習に用いる正弦波の周波数を425 Hzとすれば,約20ポイントで1周期に相当することから,20パターンとする.また,指向性特性の広帯域化を図るため,複数の周波数(3種類程度)についての結果を総合する評価関数を設定して学習を行う.学習後のシステムに対して,未学習の周波数を有する正弦波を種々の方向から入射し,指向性特性を検討する. 平成26年度には,NNが非線形システムであるために発生する歪への対処を検討する.そのために,聴覚系が基底膜上の進行波パターンに由来するトノトピー(周波数地図)を神経の並びに保って中枢までの処理を行っていることに着目し,それを模擬してシステムを周波数ごと独立に並列動作させることに挑む.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は,情報収集目的での旅費の支出が予定を下回ったこと,一部の設備備品(計算機等)の購入を延期したことにより,研究費に一部未使用額が発生している.次年度は,この未使用額とあわせて,以下のとおり研究費を使用する予定である. ・システム最適化のための計算量が増大するので,高性能な計算機を購入する. ・信号処理プログラムを効率よくコーディングするために,数値計算ソフトMATLABおよびツールボックスを更新する. ・平成24年度の成果をまとめて投稿論文とする.そのための英文添削料や掲載料を必要とする. ・平成25年度の成果を学会発表するとともに関連研究の情報収集を行うため,学会参加費および旅費を必要とする.
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