研究課題/領域番号 |
24560534
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
吉田 久 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50278735)
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研究分担者 |
小濱 剛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (90295577)
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キーワード | 光トポグラフィー / 脳波 / 視覚刺激 / 注意 / 認知タスク |
研究概要 |
本研究の目的は、従来知見のほとんどない「眠気に逆らい覚醒維持の努力をしている状態の脳・生理機能の解析をするために、近赤外光を利用した光イメージング計測と各種多次元生体電気計測の同時計測技術を実現させ、特に光イメージングと脳波計測における互いの長所を活かす統合的な計測技術の確立とその解析法に関する研究を行うことである。 昨年度我々は、光イメージングの近赤外線スペクトロスコピー(Near-Infrared Spectroscopy:NIRS)信号を解析するための前処理として,脳活動に関連するヘモグロビン変化量とそれ以外の要因に起因するヘモグロビン変化量を分離する方法を開発した。これはBOLD効果をモデル化し脳機能成分と全身性成分に分離する方法と、独立成分分析法を用いてアーチファクト成分を除去する方法を組み合わせることによって、脳機能成分を抽出する方法である。 平成25年度は,視覚注意の集中が眼球運動に与える影響の評価によって、覚醒維持に寄与しうる視覚刺激パターンの性質に対する知見を得つつある状況を利用して,従来からの実験に加えて、課題非依存性思考状態が,認知パフォーマンスに与える影響の客観的な評価を目的に,光イメージングによる脳活動を記録する実験を行い,目標探索時間や前頭前野外側部のNIRS信号を解析した。 実験の結果,複数の視覚属性の組み合わせにより定義された視対象の中から唯一の特徴を持った目標を探索する場合においてのみ,課題非依存性思考の有無により目標探索時間が影響されることが示された.また,この条件において,NIRS 信号から推定された前頭前野外側部の賦活度が高まることも示唆された.これらのことから,課題非依存性思考によって前頭前野の情報処理リソースが消費されることが示唆され,こうした状況下では,認知タスクのパフォーマンスが影響を受ける可能性が示された
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に本来であれば次年度に実施する予定であった研究実施計画、すなわち、混入するアーチファクト除去法の開発を1年前倒しして実施し,その結果、独立成分分析法とBOLD効果をモデル化した信号モデルとを組み合わせることによって、光トポグラフィーに混入する脳機能に関連しないアーチファクトを除去することが可能となった。こうした成果により,平成25年度は,当初の研究計画であった視覚刺激,注意の集中の評価を認知パフォーマンスへの影響をNIRS信号の解析によって明らかにすることが可能となった。一方で,やはり平成25年度の当初予定に含まれていた多次元生体信号(心電図、血圧、規準化脈波容積)に対して、新たに線形多次元自己回帰モデルを適用して、それらの相関、因果関係を明らかにするといった研究実施計画が計画通りには進展しなかった。上述の状況を踏まえ,3年間全体で研究実施計画を考えた場合、概ね順調に研究目的の達成する方向に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後,「眠気に抗して覚醒維持を課した状態」を中心に,注意と関連した脳機能状態の客観的評価のために,光イメージングと多次元生体信号の計測(脳波、心電図、血圧、規準化脈波容積ならびに、眼球運動計測)を実施し、これまでの研究成果を用いた時間-周波数解析法を適用して、従来知見と同様であることを確認する。さらに,線形多次元自己回帰モデルを適用して、それらの相関、因果関係を明らかにすると同時に光イメージング技術により新たに計測した酸化ヘモグロビン、脱酸化ヘモグロビン、トータルヘモグロビンの変化量データの解析を行う。こうした複合的な解析方法によって、各状態の特徴パターンを評価し、新しい脳機能解析法の確立へ向けて研究を推進する。 本研究の目的を達成するために、脳波計測の長所と短所、光トポグラフィー計測の長所と短所を再度検証する。すなわち、脳波は脳神経活動の電気的な活動を捉えるため、時間分解能が高いが、空間的な分解能は低い。また、瞬きや眼球運動などによる電磁気的雑音の混入が脳波解析を困難にさせる。一方、光トポグラフィーは脳神経活動による血中の酸化・脱酸化ヘモグロビンの変化量を捉えるため、比較的空間分解能が高いが、時間分解能は低い。また、脳活動に由来する成分のみならず、表皮の血管中を流れる血液の影響が避けられない点や、心拍や運動による全身性成分の影響もあるという短所がある。既に,上述のような光トポグラフィーに混入する脳機能に関連しないアーチファクトを除去する方法を開発しているが,さらに頭部の運動成分を把握するために加速度センターなどを用いた参照信号の計測を利用して,光トポグラフィーに混入する脳機能に関連しないアーチファクトの除去法の精度向上をはかる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に混入するアーチファクト除去法の開発を1年前倒しして実施した結果、独立成分分析法とBOLD効果をモデル化した信号モデルとを組み合わせることによって、光トポグラフィーに混入する脳機能に関連しないアーチファクトを除去することが可能となった。こうした成果により,平成25年度は,当初の研究計画であった視覚刺激,注意の集中の評価を認知パフォーマンスへの影響をNIRS信号の解析を行ったが,一方で,当初予定に含まれていた多次元生体信号(心電図、血圧、規準化脈波容積)に対して、新たに線形多次元自己回帰モデルを適用して、それらの相関、因果関係を明らかにするといった研究実施計画が計画通りには進展しなかった。そのため,実験時に使用される電極やペーストなどの費用や,実験補助員や被験者に支払うべき謝金が予定より少額で済んだことにより次年度使用額が発生した。 平成26年度は「眠気に抗して覚醒維持を課した状態」を中心に,注意と関連した脳機能状態の客観的評価のために,光イメージングと多次元生体信号の計測(脳波、心電図、血圧、規準化脈波容積ならびに、眼球運動計測)を実施するため,これらの実験時に必要となる電極やペーストなどの費用,さらに実験補助員や被験者に支払うべき謝金として使用する。その他に,本研究成果を発表するための旅費としても使用する予定である。また,こうした実験データの増加に対応するために,データ保存用のストレージの増設費用としても使用する。
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