研究課題/領域番号 |
24560535
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
南出 泰亜 独立行政法人理化学研究所, テラヘルツ光源研究チーム, チームリーダー (10322687)
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研究分担者 |
冨澤 宏光 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 加速器部門, 副主幹研究員 (40344395)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 有機非線形光学結晶 / 電気光学サンプリング / 電場応答 / 結晶成長 |
研究概要 |
テラヘルツ(THz)波発生技術の発展により、THz波イメージングなど盛んに行われているが、膨大な時間を要し、より高速に計測可能な測定系の構築が課題である。巨大な非線形性・電気光学特性を有する4-dimethylamino-N-methyl-4-stilbazolium tosylate (DAST)は、非線形光学効果により高出力・広帯域にTHz波発生可能である。電気光学サンプリングは外部電場による結晶の複屈折率変化の応答をプローブ光にて検出する。DASTのようなπ共役系材料の場合、分子内のπ電子が電場応答に寄与するため、数十 fsの時間分解能が期待できる。結晶品質を向上させることにより、高時間分解能(高速応答性)、レーザー光散乱の抑制、同一結晶内における電気光学感度の面内均一性が達成可能と考えられる。平成24年度は、高強度レーザー入射にも耐えられる高品質大型結晶育成と結晶損傷機構解明を行った。 1、大型高品質DAST結晶成長 従来よりも低速徐冷速度(0.5 ℃/day)で溶液の温度降下を行った。その結果、サイズ2 cm×2 cm×1 mmの大型結晶を約3週間で成長させた。X線ロッキングカーブにより品質評価を行ったところ、本研究で育成した結晶の線幅は従来の結晶に比べ狭いものであり、高品質であることが分かった。 2、DAST結晶の損傷機構解明 熱的破壊に着目して光損傷時損傷過程の繰り返し周波数及びパルス幅の相関を調査した。高繰り返し周波数では結晶内の熱蓄積により結晶が損傷するのに対して、低繰り返し周波数では結晶内の熱の拡散により高光損傷閾値を示した。結晶品質の異なるDASTでレーザー損傷を比較した。従来の結晶では36 mJ/cm2照射時すぐさま損傷したのに対し、本研究で作製した結晶では耐性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機非線形光学結晶からの高出力・広帯域テラヘルツ電磁波発生技術の発展により、IT機器の故障診断などが盛んに行われている。しかしながら、テラヘルツ波イメージングによる診断では膨大な時間を要し、より高速に診断可能な測定系の構築が課題である。本研究では、世界に先駆けて、巨大な非線形性・電気光学特性を有する有機結晶と超短光パルスを組み合わせた電気光学サンプリングによる超高速電界計測技術の確立を目指す。 本年度の目的は、DAST結晶品質の向上による高時間分解能計測の構築にある。強電場印加及び高強度レーザー入射にも耐えられる高品質結晶を育成する必要がある。平成24年度ではレーザー耐性評価と高品質結晶作製を行った。 結晶品質向上では従来の結晶品質は150 arcsec以上であったのに対し、溶液調整や温度徐冷速度の育成条件最適化に伴い、40-100 arcsecの高品質化に成功した。 また、レーザー強度による結晶の光損傷機構解明を行ったところ、損傷は結晶内の熱蓄積が主要因であることが判明した。高繰り返し周波数では結晶内の熱蓄積により結晶が損傷するのに対して、低繰り返し周波数では結晶内の熱の拡散により高光損傷閾値を示した。結晶品質の異なるDASTでレーザー損傷を比較した。ピコ秒レーザー(波長:1064 nm、パルス幅:600 ps、繰り返し周波数:30 Hz、ビームサイズ:0.12 mm)をDAST結晶に90,000パルス照射して、損傷と結晶品質の相関を調査した。従来の結晶では36 mJ/cm2照射時すぐさま損傷したのに対し、本研究で作製した結晶では耐性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は電気光学サンプリング(EOS)評価を行い、初期EOS計測で作製するNd:YAGレーザー(波長:1064 nm)の連続光を用いたTHz波計測実験をはじめとした光学的基礎実験及び最終的に評価する高輝度電子源(X線自由電子レーザー:XFEL)から放射される極短パルス(30 fs以下)を用いた基礎実験を行う。Nd:YAGレーザーの連続光をプローブ光として、電場変調されたDAST結晶のEOS計測を実際に試みる。高輝度光科学研究センターのグループは、DASTのみならず無機系結晶を用いたEOS計測に関して長年の経験とノウハウを蓄積しているため、本計測実験を遂行する研究者として最適である。結晶の厚みとEO感度の関係、電場印加強度とEO感度の関係など実際に測定する。また、波長を変化させたときのEO計測も試み、最適な条件探索も考案している。 平行して、DAST結晶にNd:YAGレーザーを照射することで生じる楕円偏光をプローブ光で検出する電気光学効果計測も視野に入れて実施予定である。 短パルスfsレーザーをプローブ光とする極短パルス(30 fs以下)の電荷バンチによるDAST結晶の複屈折率変化を検出する。基礎試験はフォトカソードRF電子銃試験施設(Photoinjector)で、既存のレーザ光源をEOプローブ光源として用いて実施する。この電子銃はTi:Saレーザの3倍高調波(263 nm)をフォトカソード光源として用いているため、その基本波をもとにしてEOプローブ光源のトランスポートラインを整備する。実際に得られた時間パルス波形から広帯域THz波特性を実際に評価することで高品質DAST結晶の優位性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、各研究機関で次年度へ向けた実験の準備研究に時間をかけたことより、理化学研究所(仙台)と高輝度光科学研究センター(兵庫)間で研究打ち合わせを割愛した。そのため、両者間の出張旅費を次年度に割り当てた。理化学研究所と高輝度光科学研究センター間で研究打ち合わせを年2回実施し、密に研究の進捗状況や議論を重ねる。 次年度の研究費使用予定として、レーザー耐性評価や電気光学評価など研究項目が多岐にわたっており、それを踏まえ多種の光学部品に割り当てる。さらに、結晶成長のため原料から有機溶媒まで様々な消耗品が必要となる。共同研究者側においても、既製品が対応しない特殊な光学系を使用するため、特注品での光学ミラーや結晶ホルダーなど多くの光学部品を要する。 また、秋に開催される応用物理学会と春に米国で開催されるCLEOでの研究発表を想定して旅費を計上する。年に一報の海外学術論文誌への投稿も考慮に入れている。
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