研究課題/領域番号 |
24560536
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
上野 直広 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50356557)
|
キーワード | 主成分分析 / 粒子フィルター / 炭素繊維強化複合圧力容器 / 水素エネルギー |
研究概要 |
本研究の目的は、力学的な信号を直接光信号に変換する応力発光体を用いて、構造物、特に炭素繊維強化型複合圧力容器のイメージング異常診断手法を開発することである。その中で、本年度は、これまでに開発した構造物の異常に基づく応力発光イメージのパターン分離手法の有効性を実証するために実験データの蓄積を行った。 開発している応力発光イメージのパターン分離手法は、容器を加圧する際に得られる応力発光時系列画像の各画素値を説明変数とし、各時刻の応力発光画像を超空間の1点として、その分布状態に主成分分析を適用することにより加圧1サイクルの特徴イメージ(一種の微分画像)を抽出するものである。昨年度行った予亀裂となるはずのスクラッチを付加した容器の実験では、スクラッチ位置以外で疲労亀裂貫通が発生し、カメラ視野内にとらえることに失敗していたので、本年度は、容器全体に応力発光塗料を塗布し、スクラッチを含む全体画像を観測した。前回と同様に、スクラッチ位置ではなく、他の箇所からから疲労亀裂の貫通が認められた。開発した応力発光イメージのパターン分離手法を適用すると、亀裂貫通の少なくとも100サイクル以前に特徴的なパターン変動が発生していることがわかった。このパターン変動は極めて微少であり、通常の差分処理ではノイズレベル以下になってしまうが、ある程度の広がりを持つ「かたまり」として出現するため、目視レベルでもある程度判定可能である。また、有限要素法を用いたシミュレーションでも、同様のパターン変動の出現が見いだされた。 以上の結果を踏まえ、スクラッチ付加を行わず、通常の製造工程で製造した圧力容器に対して再度同様の実験を行い、データを取得・解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、応力発光イメージの構造物の異常に基づくパターン分離手法の開発を目標としており、前年度までに行った主成分分析の改良による疲労亀裂貫通の予兆パターン分離を、実際の炭素繊維強化複合容器の実験データに適用し、再現性の確認を行った。また、有限要素法を用いたシミュレーションデータも同様の結果を示しており、物理的なモデルとの整合性も確認できた。 これまで、異常パターン分離手法として個別の応力発光イメージと物理的なモデルとのパターンマッチングによるアプローチを想定していたが、異常パターンは特徴イメージの変動として他のパターンと区別されること、異常パターンはほぼ同一の特徴を持つこと、実際の実験データから抽出された特徴イメージの変動が微少であり、通常の差分処理ではノイズレベルに埋もれてしまうことから、従来の考え方ではパターン分離は困難である。そこで、主成分分析によって得られた特徴イメージの変動が超空間内における超球面上の点の遷移として抽象化されることに着目し、粒子フィルターによってその点の軌跡を追従するシステムを適用することによってノイズの影響を除去する。現在、超空間における粒子フィルターを構築中である。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度は所属研究機関を異動し、マンパワーの大幅な拡充を期待したが、残念ながら拡充を得ることができなかったため、遅れを取り戻すことができなかった。本年度は、マンパワーを十分に確保しているので、加速的な進展が期待されると考える。また、圧力容器メーカー、公益財団法人水素エネルギー製品試験研究センター、産業技術総合研究所との共同研究体制が継続されることから、材料・システム・実証の場も確保されている。 残された研究期間を用いて、応力発光検出システムの改良および追加実験を行い、主成分分析と粒子フィルターを組み合わせた特徴イメージ変動からの異常パターン検出システムの構築と、これまで得られた分も含む実験データへシステムを適用し、圧力容器の異常診断システムとして完成させる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
所属機関の異動があり助成金を使用できない期間が相当程度発生したこと、およびマンパワーの拡充が得られなかったことによって、装置等の購入の遅れ、実験の延期が発生したため 基本的には複合容器加圧サイクル実験のために用いる。具体的には、試験片、応力発光材料、応力発光検出システムの更新などに用いる。また、最終的な研究の成果報告として、ジャーナルへの投稿料等に用いる。
|