研究課題/領域番号 |
24560538
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
河辺 徹 筑波大学, システム情報系, 教授 (40224844)
|
キーワード | 電気自動車 / スリップ抑制 / モデル予測制御 / スライディングモード制御 / ロバスト性能 |
研究概要 |
平成24年度に引き続き,省電力/高運動性/高安全性を実現する次世電気自動車(EV)の実用的運動制御法の研究として、“高安全性/高運動性とともに省電力性も陽に設計仕様とする制御法”、“各種の環境変化に対しロバストに性能保証を行う制御法”の開発を進めるとともに、これら2つの制御法の統合に関する基礎研究を行った。 1.以前から研究を進めてきたモデル予測制御(MPC)のアルゴリズムによりPID制御器を設計する制御方法の実用性とロバスト性能を向上させた。従来のフォードバック要素のみの1自由度PID制御器では、標準的なMPCの性能に劣っていた点を改良するため、フィードフォーワード要素を組み入れた2自由度PID制御器構造を導入し、これに基づくモデル予測型2自由度PID制御法(Model Predictive 2DOF PID Control)を開発した。 2.平成24年度に開発した、路面状況や重量変動などに対してロバストにスリップ抑制を行いつつ電力消費量を抑える、積分要素を加えたスライディングモード制御法の改良を行った。スライディング制御器の設計パラメータは従来一般に自由パラメータとしてその数値の与え方が決まっていない。そこで、このパラメータが性能やエネルギー効率に与える影響を解析した。また、乗り心地性能は特に運転者の安全性に大きな影響を与えるが、特に加減速によって生じる挙動に起因する乗り心地を対象として、ピッチ角速度を用いた新たな評価指標を構築し、走行性能と乗り心地の両者を満足させる走行を実現するトルクパターンの導出も行った。 3.評価指標を多目的とするMPCの設計法とMPCとスライディングモード制御法を統合した制御法開発のための基礎研究を行った。特に積分要素を加えたスライディングモード制御法に対し、積分要素の設計パラメータをMPCのアルゴリズムにより設計する統合法を開発中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績欄で述べた3つの項目に関する研究開発を行うことができ、またその基本性能の検証も行えたことでおおむね順調と判断している。ただし、統合制御法の開発については基礎理論の研究は進めているが、実用的手法としての確立には至っていない。また、減速時の安全性とロバスト性能の向上に関しても理論解析は進められたが、実用性に関する検証がまだ十分とはいえない。これらは、幅広く様々な角度からの理論構築を試みたことと、研究協力者のボッシュエンジニアリングの森川耕一博士が体調崩されたために、実用性の検証まで十分に手が回らなかったことが原因と考えている。これらが平成26年度以降の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度に基礎理論研究を行った多目的最適化型ロバストモデル予測スライディングモード制御法の構築を引き続き進めるとともに、平成25年度には不十分だった、これまで研究開発してきた、モデル予測型2自由度PID制御法、積分要素を加えたスライディングモード制御法、走行性能と乗り心地の両者を満足させる走行を実現するトルクパターンといったものの実用性検証を十分に行う。具体的には以下の項目についての理論構築及び体系化と開発を進め、研究の独自性を高めていく。 1.多目的最適化型モデル予測スライディングモード制御法については、システムの不確かさを表すパラメータの変動の上界値の見積もりが甘くなると切換ゲインが大きくなりすぎ、チャタリングを生じやすいため、この点について制御性能の保守性との関係も含めて解析し上界値の適切な設定法を検討する。また、高速で効率の良いアルゴリズム開発も併せて進める。 2.研究開発した制御手法を、EV用のトラクションコントロールシステム(TCS)やエレクトリックスタビリティコントロールシステム(ESCS)で用いられるソフトウェア化も検討し、これらを用いて、数値シミュレーションとともに実用性や制御性能等を検証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
成24年度にWindows OSの更新により購入を見送ったEVのモデル化と電気モータ特性解析のためのモータセットとその専用PC について、制御系設計ソフトウェアを用いた解析とモデル化、ならびに安価な部品の組み合わせで研究協力者である大学院生の手作業で作成したセットでも十分検証できることがわかったため、製品としての購入を見合わせた.また、参加を予定していた国際会議について、学内業務日程との重なり等の事情により、参加を見合わせたことにより、旅費の執行額が少なかったことによる。 研究開発を進めている各種の制御法の有効性検証のためには、想定していた以上に様々な条件でのシミュレーションや実験による検証も必要であることがわかったため、特に大学院生研究協力者に性能検証実験の補助と各種データの整理、ならびに当初計画で予定していた性能検証用の小型EVの製作のための部品購入や制作補助を行ってもらう大学院生研究協力者の謝金に対し、繰り越し分と合わせて執行する予定である。その他、研究成果の発表と情報収集のための国際会議参加や雑誌論文発表,研究成果公開用サーバの整備等も精力的に進める予定で、これらの経費を含めて全体的な執行を行う予定である。
|