研究課題/領域番号 |
24560545
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
萩原 朋道 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70189463)
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キーワード | サンプル値制御系 / むだ時間系 / 非因果的周期時変スケーリング / compression 作用素 / 区分的1次関数近似 / 誘導ノルム解析 |
研究概要 |
サンプル値制御系やむだ時間系の解析や設計にリフティング手法を適用した場合,compression 作用素と呼ばれる無限ランクの作用素が現れる.これは上記のような付随したある意味で本質的な作用素であり,その存在が解析や設計を厄介なものとしている最大の原因であるといえる. この難点を克服するための compression 作用素の扱いについて考察することが本研究課題の一貫したテーマといえるが,その鍵の一つであるスケーリング手法については,問題の本質的な部分の多くを共有しつつもより基本的な離散時間系の場合に関して昨年度の研究で基本的な成果を得た.本年度は,その成果の有効性を実システムにおいて検証した.具体的には台車型倒立振子の制御実験を通して,非因果的周期時変スケーリングに基づく制御器設計が制御性能の改善に有効であることを確認した. compression 作用素そのものに直結した研究としては,前年度までの成果により,むだ時間系の安定解析においてその有効性が明らかになりつつある.そこでは compression 作用素の準有限ランク近似問題を扱ったが,その一方で,compression 作用素はサンプル値制御系の取り扱いでも現れ,持続的信号に対するサンプル値制御系の性能評価問題を考える際には,この作用素を近似するというよりもむしろそのまま厳密に取り扱った場合のノルムの大きさを評価することが重要である場合も多い.ただし,compression 作用素を厳密に扱うといっても,それを直接的に行うことは極めて困難であるため,やはり適当な近似を施しつつも,近似誤差を任意に小さく留めることのできるような方法を見いだすことが重要である.本年度は,高速リフティングと入力の区分的1次近似に基づくそのような研究を進め,一様ノルム(より厳密にはL∞[0,h)ノルム)を漸近的に厳密に計算する方法を明らかにし,その有効性を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り,サンプル値制御系やむだ時間系の解析ならびに設計におけるリフティング手法を適用したアプローチにおいては,それに付随して現れる compression 作用素の扱いが重要である.昨年までの研究では,compressoin 作用素に対して準有限ランク近似を行うことを考えてきたが,本年度は,この作用素をある意味において直接的に扱った形の議論を展開し,その誘導ノルムを計算する方法を与えることができた.この方法も,実際には近似的扱いを利用しているが,その近似手法は従来のような準有限ランク近似とは異なり,無限ランク性を保持しつつも,近似誤差が漸近的に任意に小さくできることが保証されているものであると解釈できるものと考えられる. この方法は,区間[0,h)で定義された compression 作用素のみに限定的なものではあるが,compression 作用素がサンプル値系,むだ時間系においてカギを握る作用素であることに対応して,通常のように無限時間区間で扱ったサンプル値系の解析に発展的に利用できることはもちろん,その設計においても重要な道具として活用できると期待される.同様のことはむだ時間系に対しても可能であると期待され,今後の研究の進展に向けて十分な基盤整理が着実に進んでいると考えるものである.
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今後の研究の推進方策 |
上述のように,本年度の成果として得られた compression 作用素の誘導ノルム計算に関する方法は,無限時間区間で考えたサンプル値系に対する同様の問題,いわゆる L1 制御問題を扱う上での基本的な成果と見ることができる.この基本成果を拡張して,サンプル値系の L1 解析,さらには,L1 制御器設計問題を論じることを視野にして,この手法のさらなる整備を図る予定である.また,同様の手法をむだ時間系の解析に関しても進める他,サンプル値系およびむだ時間系の特殊ケースとしてとらえることのできる有限次元線形時不変連続時間系の解析についても検討する予定である. その一方で,compression 作用素をその一部分に含むモノドロミー作用素を通して,むだ時間系の安定解析についても研究されており,そのような方向についても引き続き研究を進める.モノドロミー作用素を直接扱うのではなく,そのべき乗を扱うことを考えることで,これらの作用素を近似的に扱った場合でも近似誤差の影響を(安定解析に十分な妥当性を与えうる形で)評価する考え方である.この方法ではスケーリングの考え方をさらに適用することによってよりよい安定解析が可能となると考えられるが,引き続きそのような方向性について検証する予定である.
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