研究課題/領域番号 |
24560552
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
足立 修一 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40222624)
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研究分担者 |
丸田 一郎 京都大学, 情報学研究科, 助教 (20625511)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 制御理論 / システム同定理論 / 立体音響 / 頭部伝達関数 / 多入力多出力同定 |
研究概要 |
前方や後方,上下などのさまざまな方向からの音を再現する立体音響を実現するためには,人間の頭部伝達関数を推定する必要がある。従来,音響信号処理の分野では,TSP(Time Stretched Pulse)信号を用いて頭部伝達関数を求めていたが,この方法では多方向の頭部伝達関数を一つひとつ測定しなければならず,測定に長時間を有していた。 本研究では,制御工学の分野で研究が進められている多変数システム同定理論を用いて頭部伝達関数を推定する方法について研究を進めている。本年度は,NHK放送技術研究所においておこなった57方向の三次元空間多方向同時推定実験データの解析を主に行った。具体的には,以下の検討を行った。 1.音源から片耳までを多入力1出力システムとみなして,予測誤差法の一種である最小二乗法を用いて頭部伝達関数の推定を行った。また,部分空間法と呼ばれる多変数システム同定法の適用検討も行った。推定の結果,音源から反対側の耳までの推定精度が少し不足することがわかり,頭部伝達関数の線形補間を用いた正則化項を最小二乗法に導入した「正則化最小二乗法」の適用を行い,精度の向上を図った。 2.少ない測定点から測定されていない点を補間する方法について検討した。具体的には,線形補間,スプライン補間,区分多項式補間などの従来法を適用した。さらに,データ圧縮に基づく区分的アフィンモデル(PWAモデル)同定法を用いた補間方法を提案し,実験データに適用した。 3.パラメトリック頭部伝達関数を用いた頭部伝達関数の推定方法について検討した。この方法は,方向近くの手がかりであるスペクトラルキューと呼ばれる量に着目し,これをスペクトルのピークやノッチをパラメータで表現したパラメトリックモデルで推定するものである。この推定法を実験データへ適用し,その有効性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画として以下の項目を挙げていた。 (1)多変数システム同定実験の計画,(2) 多変数システム同定実験の実施,(3) システム同定実験データの解析,(4) 頭部伝達関数の簡単化 (1)については順調にシステム同定実験を計画し,(2)の多変数システム同定実験をNHK放送技術研究所の防音室と無響室で行った。対象として,ダミーヘッドを用いたデータと実頭を用いたデータ20人分の測定を行った。(3),(4)については前項の研究実績の概要に書いた通り,順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に行った頭部伝達関数の推定問題に代表される音響伝達関数のシステム同定実験,システム同定,そして聴覚実験,さらに,モデルの簡単化について,問題点を抽出して,さらなる改善を行う。特に,つぎの3点に注力する。 ・多変数システム同定実験における最適同定入力の精製法についての理論研究 ・音響システムのためのシステム同定理論の体系化 ・圧縮サンプリングを用いた頭部伝達関数の簡単化(補間)に関する検討
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次年度の研究費の使用計画 |
NHK技術研究所で実施する頭部伝達関数のシステム同定実験データの解析を行うために,持ち運びの便利な高性能ノート型PCを購入する。また,システム同定結果に基づいて合成する立体音響を評価するためには,多数の被験者による聴覚実験が必要になる。さらに,大量の実験データを処理するためには学生アルバイトによる実験データ処理補助が必要になる。そのために,研究補助のための謝金を使用する。
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