研究課題/領域番号 |
24560552
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
足立 修一 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40222624)
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研究分担者 |
丸田 一郎 京都大学, 情報学研究科, 助教 (20625511)
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キーワード | 制御理論 / システム同定理論 / 立体音響 / 頭部伝達関数 / 多変数システム同定 / 同定入力設計 |
研究概要 |
前方や後方,上下などのさまざまな方向からの音を再現する立体音響システムを実現するためには,人間の頭や耳,そして体の形状などによって人それぞれ異なる頭部伝達関数を推定する必要がある。従来,音響信号処理の分野では,TSP(Time Stretched Pulse)信号を用いて頭部伝達関数を測定していたが,この方法では,多方向の頭部伝達関数を一つ一つ測定しなければならず,測定に長時間を要していた。 本研究では,制御工学の分野で研究されている多変数システム同定理論を用いて頭部伝達関数を推定する方法について検討を進めている。高精度なシステム同定結果を得るためには,適切なシステム同定入力を選定する必要がある。特に,多入力システム同定実験の場合,同定入力の最適設計問題は完全に解決されていなかった。本年度は,特にこの多入力システム同定信号の設計問題について検討し,新たな同定入力選定法を提案した。また,このようにして選定された入力信号を用いて,三次元空間多方向同時同定実験を行い,そのデータを解析した。具体的には,以下の検討を行った。 1. 頭部インパルス応答(頭部伝達関数を逆フーリエ変換したもの)の値が0に収束する時間を考慮した新しい多変数同定入力信号を一つのM系列信号から生成する方法を提案した。 2.NHK放送技術研究所の防音室において,提案した同定入力信号を用いて24方向三次元空間多方向同時同定実験を行った。 3.測定された入出力データに基づいて予測誤差法により,頭部伝達関数を推定した。その結果,すべての方向において,従来われわれが提案していた多変数同定入力を用いた場合よりも高精度な頭部伝達関数を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究実施計画として, (a)多変数システム同定実験における最適同定入力の生成法についての研究を進める。(b)音響系のためのシステム同定理論の体系化を行う。(c)圧縮サンプリングを用いた頭部伝達関数の簡単化に関する研究を進める。 の3つを挙げたが,(a)に関して新しい多変数同定入力の設計法を与えることができた。(b)に関しても(a)と関連して,音響系に特有な問題(たとえば,反射/残響によるインパルス応答の残留成分の影響の考慮など)について,焦点を絞ったシステム同定理論が構築されつつある。(c)に関しては未着手であるが,これについては今度検討していきたい。 以上より,本研究は研究計画通りおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までの研究により,われわれが提案した多変数システム同定入力信号の設計法を用いて,多変数システム同定実験を行うことにより,従来のTSPによる測定法と比べて圧倒的に短時間で同程度の精度で,多方向頭部伝達関数を推定することが可能になった。今後は,得られた頭部伝達関数の性能を,被験者による聴取実験を行うことによって確認する予定である。 さらに,頭部伝達関数の推定という具体的な対象のみならず,音響システムのための多変数システム同定理論の体系化を目指した研究を推進する。多変数システム同定実験の場合,測定される入出力データは膨大なものになる。そのビッグデータをどのように簡略化するかが将来的な問題点であり,その一つの解決策として,圧縮サンプリングを用いた頭部伝達関数の簡単化(補間)に関する検討も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
他の予算により国外出張することができたため,初年度に予定していた外国旅費(調査・研究旅費)を使用しなかったなど,旅費での支出が当初予算計画より大幅に少ないことが大きな理由である。また,高性能なスペックの計算機が比較的安価に購入できたことも予算が予定額に達しなかった理由である。 今年度は,多くの被験者による頭部伝達関数の聴取実験を予定しており,そのため謝金の利用を予算より大目に使用することを予定している。また,3年間の研究成果を国内外で発表するために,旅費による支出も多くなることを予定している。
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