MMOs(mixed-mode oscillations)は化学実験において見出された普遍的な非線形振動現象である。本研究は、拡張BVP発振器に生じるMMOs現象が、実際のノイズや外乱のある実回路においてどのように振る舞うかを調査したものである。まず、本研究で対象とするのは、簡素な電子回路であるため、MMOs現象の物理的側面の考察を行うことが出来た。拡張BVP発振器は一つのインダクタLに2つのキャパシタC1とC2が並列に挿入されているため、それぞれ、1/√LC1および1/√LC2の振動角周波数を持つ発振が生じると考えられる。そこで、C1>>C2とした場合にはLC1の共振器が長振動解を発生し、LC2が短振動解を発生すると解釈することが出来る。化学実験ではMMOs現象の物理的意味はほとんど解明されていなかったが、電子回路は簡素であるため、このように物理的要因を考察することが出来る。 また、MMOs理論的に解析を行うため、外乱に周期性を仮定して解析を行い、リアプノフ解析や分岐理論により分岐集合を作成した。外乱の角周波数が、発振周波数に近い場合には、外力の振幅が非常に小さい場合においても、MMOsの波形は大きくゆがむことが明らかとなった。しかしながら、系が3-time scaleとなるように回路パラメータを設定し改めて追試の回路実験を行ったところ、数値実験において観察されたMMOs現象とは異なった側面が観察された。すなわち、過渡的なMMOsが数分間に渡って観察されたのち、カオス解へと遷移し、再び、異なる波形のMMOsが数分間観察され、再びカオス解へ遷移するという振動が繰り返された。このようなMMOsが観察されたのは初めてであるが、この現象は実実験におけるノイズの影響というよりも直流電圧源のドリフトを考慮することにより現象は説明されることが分かった。
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