研究課題/領域番号 |
24560562
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
坂井 悦郎 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (90126277)
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キーワード | コンクリート / 熱量測定 / 水和 / 性能検査 / スラッジ水 |
研究概要 |
セメント産業において廃棄物や副産物の原・燃料へ利用が進んでおり、最終処分場の延命や持続可能な社会の構築のために非常に役立っている。健全な社会資本を構築するためのセメントの品質を確保することは、最も重要なことである。廃棄物使用に伴い、また、より高度な各種の材料の使用により簡便な品質管理・検査手法の確立が望まれる。また、海外への建設会社の仕事の展開も検討されているが、セメント品質の変動への対応に苦慮している。このような状況において、簡便なセメントの品質検査手法の開発が切望されている。本研究では、各種の熱量測定を利用することで体系的な品質検査システムの構築を目的している。本年度までの研究により、従来のコンダクションカロリメータの撹拌機構を改良した改良型コンダクションカロリメ-タ、反応速度測定装置、微少量断熱熱量計およびサンドイッチ型コンダクションカロリメータを開発し、それらの利用による統合的なシステムを構築した。さらに適用範囲の拡大を目指して、遅延剤を用いたスラッジ水の利用における熱量計の利用法を確立し、膨張材の表面処理による反応制御への熱量計の利用や鉱化剤としてフッ素系化合物を用いた場合の流動性への影響などへの熱量測定によるセメントの性能予測手法の適用性を明らかにし、本システムの適用範囲を拡大した。本研究では各種の熱測定装置開発し、それらの組み合わせによるセメントの初期性能を把握する品質管理・検査システムを提案した。特に、個別の熱量測定によるセメントの性能予測を統合化し、熱測定装置の組み合わせにより、より簡便な品質管理システムの構築が可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各種の熱量測定とセメント性能との関連を整理し、各種の熱量測定の組み合わせによるセメント性能予測システムを構築した。また、熱量測定と水和予測手法の組み合せにより、初期10時間程度の測定から、セメントの性能を予測する手法やスラッジ水中の残存しているセメント量の予測手法も確立した。また、セメントの組成が変化した場合の、断熱温度上昇量も少量試料での測定が可能であることを明らかにした。さらに、セメントの組成が変更された場合や鉱化剤が添加された場合などセメントペーストの流動性に影響を与えるが、注水直後の熱量測定から予測可能であることを明らかにした。以下に、本研究で開発した熱量測定法について説明する。 本研究で開発したサンドイッチ型は、標準セルと測定セルとすべて対にしている。従って、例えば一時間おきに12点の試料をセットすることができる。水和反応速度の測定は、異常凝結や異常遅延などを簡単に評価できる。なお、それを簡便にして、恒温槽を無くし、ペルチェ効果により直接ヒートシンクの温度を制御する卓上型で、分析用ではなく品質管理・検査用に適している熱量計も新たに開発した。また、検出に熱電対を用いることと撹拌機構を改良することで、注水直後の10分程度までの非常に初期の水和における熱測定を可能とした。初期の注水直後の反応は初期の流動性に関連する重要な情報が提供される。 少量試料量の断熱熱量計では, 30mL程度のモルタルにより、各種の強度レベルのコンクリートの断熱温度上昇特性の推定が可能であることを明らかにした。本装置は高感度の直流増幅器とツェナーダイオードを組み合せた温度制御回路を使用し、差動制御で恒温槽を温度制御するとともに、槽内の循環水温度を制御することで、最高制御感度5×10-3 ℃の断熱制御を行っている。 以上のように熱量測定のための装置を開発し、その統合化によるセメント性能検査手法を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
各種の熱量測定により、個別のセメントの性能予測が可能であることを見いだし、システムを統合することで、セメント性能検査システムとすることを明らかにした。引き続き提案した統合システムの精度を向上させるための検討を継続する。さらに、CO2削減対策として今後、セメント製造においては、混合セメントが主力になることが予想される。その際、初期強度や中性化抵抗性の向上のために、初期強度発現性に優れたCa3SiO5量を増加させるなどセメントの構成化合物組成の変更が必要である。また、廃棄物利用量の確保は日本のセメント産業においは、この産業が成立するために必要なことであり、混合セメントとすることで、クリンカー生産量が減少して、廃棄物・副産物の利用量が減少することは避ける必要がある。廃棄物や副産物の化学組成として、Al2O3量がセメントクリンカーの組成よりは大きな値を示しており、セメント製造において、廃棄物・副産物の利用量を確保あるいは増加させるためには、Al2O3含有量の多い間隙相量を増大したセメントとする必要がある。このような組成変更に伴うセメントの性能検査にも、初期水和熱、断熱温度上昇量などの基本的な熱量測定が必要である。このような新たなセメント産業の方向に関連しても、本研究で確立した統合的な検査システムの適用が可能かどうかを検討することは、セメント産業としても重要なことである。以上より、本年度は、セメントの構成化合物組成が変化した系への熱量測定によるセメント性能検査システムの適用性について、検討を行う。また、今まで検討している、スラッジ水、鉱化剤あるいは膨張材の処理などへの熱量測定による統合化システムの適用についても検討を継続する。以上の成果をもとに本研究で開発した各種の熱量計を用いた熱量測定の都合化によるセメント性能検査システムを提案する。
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