汎用ソフトでは力学的には相応しくない応力速度が実装され,また近年は数学的な超弾性が主流になっている。一方で歴史が古い塑性論は,増分構成則で力学的に明確な構成則を合理的に表現している。本研究では超弾性に則し,トゥルーズデル応力速度に着目した。まず弾性の場合,ヤウマン速度では振動する単純せん断有限変形を適切に表現できることを証明し,一軸状態有限変形でも広い変形領域で線形に近い応力ひずみ関係を表現できた。 変形の局所化については,従来は物理的に容認できない程の大きな荷重でしか生じなかった局所化が,少なくとも平面ひずみ状態ではその一桁程度小さい荷重で発生し得ることを示した。また3次元状態でも,実験結果のように圧縮と引張で異なる角度の局所化を予測できた。しかしながら,圧縮における局所化発生は,従来の結論とほぼ同様軟化条件下でしか発生しない上に,まだその発生荷重の予測値は大きい。これは理論的には,圧縮状態では孤立した局所化ではなく周期的な局所化しか生じないことを意味すると考えている。 最終目標であった境界値問題への応用では,標準的な有限要素定式化で必要な6x6のサイズの各種行列を,非対称なものも含めて9x9のサイズに変更した結果の解の確認をする必要がある等,数値解析については道半ばである。しかし,一つ明らかになったことは,いわゆる有限変形における内力仮想仕事項がノミナル応力速度で表現されるべきであるという説明を明確化したことであり,さらに,それを厳密に取り扱った場合で特に弾性の場合,トゥルーズデル応力速度を用いて等方弾性構成則を定義した場合に限って,接線剛性行列が対称になることを証明できた。亜弾性そのものは非保存の弾性構成則しか生まないものの,巨視的な増分の力学場においては,接線的には汎関数が存在することを新たに証明することができた。
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