研究課題/領域番号 |
24560578
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
阿部 和久 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40175899)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 鉄道軌道 / まくらぎ間隔のバラツキ / 振動低減 |
研究概要 |
まず,鉄道事業者に依頼して,まくらぎ間隔のバラツキに関する測定データを1線区のみ入手することができた.その結果,外国における既往の研究報告と同様に,国内の鉄道においても,当該のバラツキは概ね正規分布に従うことがわかった. 次に,軌道の定点加振による定常共振応答を対象に,まくらぎ間隔のバラツキが共振振幅に及ぼす影響について調べた.まずは,軌道の数値モデルを対象に,各まくらぎ位置のずれと共振振幅の変動量との関係を調べた.その結果,まくらぎ配置の僅かなずれに対して共振振幅はむしろ増幅されることや,さらに大きなずれの下では振幅が急減少することがわかった. 続いて,各まくらぎ位置のずれに関する共振振幅の感度を二次の微係数まで求め,これに基づいた摂動展開式を導出した.さらに,当該のバラツキが正規分布等に従う様に設定した多数の軌道モデルを生成して応答解析を実施し,共振振幅の期待値・分散と,まくらぎ配置の分散との関係を求めた.その結果,共振振幅の期待値・分散は,まくらぎ配置の分散の増加と共に一旦増大するものの,その後減少することが確認された.入手したまくらぎ間隔のバラツキデータをこの結果に当てはめると共振振幅は低減されることとなり,バラツキの意図的導入の有効性を確認した.なお,摂動法による評価とこの数値実験結果との比較より,摂動近似の適用範囲は極めて小さな分散に限定され,通常のバラツキに対応するような分散のレベルでは適用が困難であり,統計量評価は直接解析により求めるのが妥当であるとの結論に至った. また,平成26年度に実施予定していた,軌道内の波動透過率に基づくまくらぎ配置の最適化解析を試行的に実施した.その結果,まくらぎ間隔の許容範囲内で最大と最小の間隔を有する軌道区間を交互に設定するパターンが得られた.定点加振解析の結果,1000Hz付近の共振振幅を効果的に低減可能なことがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成24年度は,まず,我国の鉄道軌道におけるまくらぎ間隔のバラツキに関する統計データの把握を目的の一つとしていた.そのため,鉄道事業者に対して当該データの測定について交渉してきたものの,直接データを取得するまでには至らなかった.ただし,1線区において車上より撮影した画像データを加工して求めたまくらぎ間隔のバラツキデータを入手することができた.また,他の線区に対して,平成25年度以降鉄道事業者の協力を得て測定いただける予定である. まくらぎ配置のバラツキが共振振幅の変動に及ぼす影響については,二次の摂動近似の係数を理論的に導出することを当初計画していた.しかし,二次の感度までを理論的に求めることは,むしろ計算量が増大するため,数値的に求めるより現実的な方法に変更した.その結果,二次近似の構成は完了し,それに基づく統計量評価も当初の予定どおり試みることができた.また,当該近似の適用範囲を確認するために,ある確率密度関数に従うまくらぎ配置の軌道を多ケース生成し,軌道振動解析を実施した.それにより得られた統計量を摂動近似と比較し,当該近似評価手法の適用範囲を把握することができた.さらに,解析により得られたまくらぎ配置の分散と共振振幅の期待値・分散との関係より,バラツキを意図的に導入することによる振動低減効果を確認することができた. また,平成26年度に実施予定していた,まくらぎ配置の最適化を試行的に実施した.その結果,得られたまくらぎ配置が,共振振幅の低減に有効であることを確認できた. 以上より,当初計画から一部変更することとはなったものの,24年度はほぼ計画どおり完了し,26年度計画の一部についても成果を得ることができたため,総合的に見て概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
初年度(H24年度)は概ね計画どおり研究を進めることができた.そこで,平成25年度については当初計画に沿って進めて行く.具体的内容は以下のとおりである. まず,当研究室で過去に構築した走行車輪・軌道連成モデルにおいて,まくらぎ間隔にバラツキや最適な配置パターンを設定し,応答解析を実施する.なお,バラツキは所定の確率密度関数の下で多ケース生成する.解析結果からレールたわみや輪重などを求め,前年度に得た結果との比較を行い,調和加振時の振動低減効果と列車走行時の低減効果との整合性を確認しつつ,本振動低減法の有効性を検証する. なお,まくらぎ間隔のバラツキの存在は振動応答の低減に有効と考えられるものの,間隔の過度な増大は,レールのたわみや曲げ応力の増大をもたらすことが懸念される.そこで,これを防止するためにバラツキに設定すべき上限値についても,上述の連成解析結果を通して軌道構造の強度の観点から検討する. 平成26年度は,25年度までに得た知見に基づき,コンクリートスラブ軌道やバラスト道床軌道を対象として,最適なまくらぎ配置について検討する.なお,平成26年度に一部実施予定としていた,軌道内の波動透過率に基づくまくらぎ配置の最適化については,平成24年度に概ね終了することができた.ただし,得られた配置は一定間隔区間の組み合わせによるものであり,共振の原因となり得る周期性をある程度保有している.そこで,まくらぎ位置のずれに関する確率分布を設計変数として,より振動低減に有効なまくらぎ配置のバラツキの探索を試みる.また,得られたまくらぎ配置の下で軌道振動解析を行い,振動低減効果を確認し,提案手法の有効性を検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は実軌道を対象にまくらぎ間隔のバラツキを測定し,その統計的特長を把握する予定でおり,そのための費用を計上していた.しかし,既に述べたとおり,鉄道事業者との交渉に時間を要し,漸く1ケースのみデータ入手できたものの,年度内実施が適わず,そのため支出額が当初所用額に達しなかった.なお,本件については,次年度以降鉄道事業者の協力により,データを収集いただける予定である.そのため,当該測定は実施するものの,費用は発生しないこととなる.ただし,計測手法や対象線区の選定などの打合せが必要となるため,当該助成金約7万円は次年度に繰り越し,視察・打合せ旅費として活用する.
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