研究課題/領域番号 |
24560599
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
若井 明彦 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90292622)
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研究分担者 |
西村 友良 足利工業大学, 工学部, 教授 (00237736)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 火山灰質粘性土 / 凝灰質粘土 / 風化 / 軽石 / 地下水位 / 地震 / 含水比 / 地すべり |
研究概要 |
本年度は、課題の主眼である火山由来土からなる斜面地の実態把握に研究の重点を置いた。疫学的な検討の前段階として、典型的な震災被災斜面やその他の類似した地形・地質的条件を有する斜面において、詳細な土質調査と機構解析を行った。 東日本大震災による被災斜面として、栃木県および同県と隣接する福島県白河市での地震地すべり斜面をいくつか巡検し、地質構造を明らかにするための詳細な室内試験およびサウンディング(簡易動的コーン貫入試験)を実施した。これらの被災斜面での共通した傾向として、段丘の肩や丘陵地それぞれの中で集水傾向の微地形を有している点(埋積谷を含む)、風化軽石に由来する軟弱かつ鋭敏な凝灰質粘土層が斜面中・下部に挟在され、それ以外は火山灰質粘性土(いわゆるローム層)が厚く堆積する地質条件であること、などが確認された。ローム優勢な斜面における地震地すべりリスクの増加メカニズムを確認するため、現場採取土による室内力学試験から解析パラメータを同定した数値シミュレーション(有限要素解析)を実施し、震災時の地震地すべり機構を再現することに成功した。あわせて、震災を経験していないが、同種の土が分布する群馬県西部のある斜面においても同様の検討を実施した。 これらの解析結果およびその前提となる各種の力学的前提の妥当性などから総合的に判断して、厚いローム層内に風化しやすい軽石層を挟在する斜面が長期間の滞水環境に置かれると、軽石内のガラス質が徐々に溶脱して、鋭敏で軟弱な乳白色の凝灰質粘土層を形成しやすいと考えられる。難透水の粘土層の上部でさらに地下水は上昇し、ここへ仮に強い地震動が作用すると、鋭敏な粘土層がまず繰返し軟化を生じて強度を急激に失い、そこからすべり面が進展し、やがて厚いローム層がそのせん断に追随して斜面全体の地すべり機構が形成されるのだと推定られる。 以上が初年度の実績である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題の最終的な目標は、火山由来地盤における地震地すべりを引き起こす鋭敏かつ軟弱な凝灰質粘土層の分布状況の把握と類型化である。関東地方だけを例にとっても地域ごとに分布する火山由来土の力学特性は大きく異なっており、最初からそれらを包括的に扱うことは極めて困難であるため、まずは東日本大震災により被災した斜面で確認された火山由来土の性質を詳細に把握し、それが地震地すべりにどのように影響を与えているのかを、数値解析を援用しながら、正確かつ詳細に把握することに努めた。数値解析結果はかなり正確に実現象を再現できており、翻って仮定した力学的前提の妥当性を確認できたことは、他の物性把握の信頼性を担保している。 その他、既存の調査結果の期待できない一般斜面における簡易な動的コーン貫入試験の有効性、また採取土の鋭敏さの度合い(室内試験の困難さ)の把握など、実体験でしか得られない貴重な経験を獲得できたことは、課題研究の対象である三ヶ年の初年度としては、大変大きな成果であった。また、調査の過程で遭遇した、切土露頭における鋭敏粘土層の短時間の日光照射による自然含水比の低下が、同土の見かけの強度を著しく増大させたことなど、工学的に有用な知見を偶発的な事象から獲得することもできた。いずれも火山由来土の特性の把握と類型化を図る上で有用な成果である。 関東地方を対象にした地震地すべりを誘発する火山由来軟弱土のいくつかの典型的な事例(一般の斜面の事例のほかに、震災で実際に地すべり被害を受けた斜面も含む)を一年間という短期間で効率的に調査できたため、全体の研究計画の中での初年度の進展はおおむね順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
北関東の各地における火山由来土の特性はそれぞれ大きく異なっている。これらのうち、地震地すべりに特に関与する恐れのある鋭敏かつ軟弱な凝灰質粘土がないかを、広域的に文献調査や現地踏査などから調査する。また、このような土の主因が軽石の風化であることを念頭に置き、風化軽石層を形成した実績のある軽石をリストアップする。可能であれば、軽石の噴出年代と給源火山を整理することが理想であるが、これにはボーリング調査やテフラ分析等を含めた極めて大がかりな調査が必要となる。本課題研究ではそれに供する十分な時間と経費がないので、もう少し解像度を低くした広域的な資料収集ないしは、どこか個別の地域に特化した集中的な調査のいずれかの実現可能性の高い方策を選択する計画である。当面は双方の可能性を前提に研究作業を推進する。 実際の防災対策に生かすためには、このような疫学的な検討だけでなく、具体的な微地形や地下水位を有する個別の斜面ごとの地震地すべりリスク評価への連続性が重要である。こうした高解像度の評価法に将来生かすことができるような、火山由来土の特徴把握と類型化が望まれる。そのために、有限要素解析などを援用した、地すべり機構解析の中での火山由来土の力学的役割の確認も並行して進めていく計画である。 いずれにせよ、初年度の成果を踏まえて、より効果的な活動を展開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の研究費を計画的に使用した結果、研究費の残額に対して厳密にちょうどの金額の支出をすることができずに少額954円の残りが生じてしまったが、これは25年度の研究費と合わせて執行する予定である。
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