研究課題/領域番号 |
24560603
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三村 衛 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00166109)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 弾粘塑性有限要素法 |
研究概要 |
①更新統粘土は過圧密領域においては載荷直後は全く変形しないが,時間の経過とともに徐々に変形が発生し,長期的には正規圧密領域での沈下曲線に近づいてくる。沈下速度で比較すると正規圧密,過圧密の違いは長期的には認められない。この時間依存性挙動を何とか表現する擬似過圧密圧縮モデルを構築した。具体的には,pcを過圧密・正規圧密の境界値とするのではなく,常に粘塑性挙動をすると仮定し,pcをその圧縮性の変化点と位置づける。これにより,擬似過圧密性を有する正規圧密aged粘土の時間依存性挙動を説明しうる枠組みを仮定した。 ②水平一様地盤モデルに基づく予備計算で,現地で測定されている過剰間隙水圧の深度方向分布,時刻歴を正確に表現できる砂礫層の透水係数を見出し,これを砂礫層厚の変化,細粒分含有率の影響などを包含した,現地のマスパーミアビリティを数値化した等価透水係数という形で数値解析に導入することに成功した。その際,物理探査による砂礫層の三次元的な広がりとボーリングコアによる細粒分含有率の評価,さらには深部構造に起因する旧河道の位置の同定など,砂礫層の堆積環境をバックデータとして用い,得られた等価透水係数値の妥当性を検証した。 ③建設開始から23年を経過した一期空港島における計測値は,長期変形と過剰間隙水圧の変化を記録した希有なデータである。まず,水平一様地層連続モデル地盤において,砂礫層のマスパーミアビリティを考慮した解析を行う。まず,一期空港島建設によって生じる地盤の応力と変形を妥当に表現できる解析モデルの構築を行った。解析結果は更新統粘土層の層別沈下,同粘土層と砂礫層の過剰間隙水圧の時刻歴を両方正しく予測することができ,提案手法が有意であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
更新統粘土の擬似過圧密圧縮モデルの構築と室内試験結果との比較に基づくモデルの妥当性検証を行い,実用に耐える圧縮モデルが構築されていることを確認した。また,現地における排水を支配する砂礫層の透水性を,物理探査,基準ボーリングによる粒度特性などから類型化し,予備解析を通じて過剰間隙水圧の時刻歴を各砂礫層ごとに妥当に表現できる等価透水係数という形でモデル化することに成功した。この概念は本申請研究で目的としてる実地盤の圧密を支配するマスパーミアビリティそのものであり,要素レベルの透水性とは異なる見方をする必要があることを明らかにすることができた。埋立に伴う過剰間隙水圧の時刻歴という形で応力についての解析の妥当性を担保しつつ,沈下量という変形についても現地の櫓で継続的に実施されている測定値との比較を通じて,提案している解析手法がそれぞれの粘土層についての実挙動を性格に評価できていることを確認した。これにより,応力,変形両面から提案している解析手法の妥当性が確認でき,地層の変動を考慮した実地盤モデルへの展開への準備ができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
270本に及ぶ調査ボーリング結果と,反射法地震探査による各砂礫層の平面分布性状から,関西国際空港基礎地盤の三次元地下構造モデルを構築する。この時,透水を受け持つ砂礫層の層厚変動とともに,ボーリングコアの地質分析結果による細粒分含有率から,マスパーミアビリティの概念の妥当性を確認し,いくつかの測線に沿った代表断面を作成する。この特徴は,地層の層厚変化と基盤と地層の傾斜を現地の状態そのままにモデル化された,いわゆる実地盤モデルというべき有限要素メッシュが得られることである。これに基づいて以下のような検討を行う。 ① 水平一様地盤モデルと実地盤モデルを用いた解析結果の比較を通して,基盤の傾斜,地層の傾斜,層厚の水平方向への変動といった幾何学的な地盤構造が,埋立による応力~変形挙動にどのように寄与するのかについて検討する。また,この時,マスパーミアビリティの概念がどのように機能するのかについても考察する。 ② 一期空港島の沖合200mに二期空港島が建設される。この時,砂礫層内を過剰間隙水圧が消散しきらずに伝播するという現象が認められている。こうした隣接埋立に伴う基礎地盤の相互作用について検討する。過剰間隙水圧の伝播は有効応力の減少をもたらし,基礎地盤は埋立中であるにもかかわらず除荷を受けたかのような応力状態を経験する。この時の地盤挙動,特にリバウンドと再圧密がどのような条件の関数として現れるのか,また,沈下はさらに大きくなるのか,軽減されるのかは,その後の空港島の供用,維持管理に大きく影響する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度については,初年度で確立した解析手法を用いて,地質学的に明快な実地盤モデルを構築すること,これを用いた断面二次元の有限要素解析を数断面で実施することを考えている。従って,解析の実施,プレ・ポストプロセシングに関わる謝金を計上している。必要に応じて描画に関するソフトの購入も考慮している。また,現地計測データの継続的な収集,関西国際空港会社の技術者との定期的な検討会,成果の学会発表,国際会議におけるプレゼンテーションを予定しており,これらに関わる旅費,交通費の使用を考えている。
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