研究実績の概要 |
3年目は,水産資源の長期低減傾向が顕在化している瀬戸内海全域を対象とした領域モデリング,黒潮域におけるサブメソスケール(SMS)乱流解像流動モデリングを実施した.瀬戸内海のような内湾域では,従来は潮流計算による環境影響評価が行われてきたが,黒潮流路変動に伴う沖合水塊の貫入が瀬戸内海全体の物質収支を支配していることが解明されつつあり,外洋影響を取り込んだ大領域・高解像度モデリングが望まれている.外洋・河川からの浮力に伴う傾圧不安定や,複雑な地形により生じる強いSMS渦は,海域の物質分散に強く影響するだけではなく,波との相互作用を通じて平均流動構造を変化させる(甲斐田・内山,2014,土論B2).一方で,我が国沿岸域における領域海洋モデリングの成功のためには黒潮などの海流の再現性を保持しつつ,高解像度計算を行うことが本質的に重要となる.以上のような問題意識の下に,これまでの高解像度海洋モデリング(例えば,Dong et al., 2009, JGR; Uchiyamam et al., 2014, Cont. Shelf Res.)の経験をベースに, 2段ネスト瀬戸内海全域モデリングおよび2段ネスト黒潮域モデリングを実施した.前者ではLagrange粒子追跡にもとづく海洋生態系ネットワーク構造の解析(内山・小硲ら,2014,土論B2),後者では衛星海面高度計およびARGOフロートデータを用いた3次元密度推定値を用いたデータ同化実験によるメソスケール流動再現性の評価(Uchiyamaら,2015,J. Atmos. Oceanic Tech.投稿準備中)を行った.前者については大規模な粒子追跡と統計処理による高精度海洋モデリングの新たな応用可能性を示し,後者については追加コストを伴わずに海流の総観規模・中規模現象再現性の著しい向上を可能とする新技術の提案を行うことに成功した.
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