2012年~2015年度に,鹿児島湾,八代海において,係留式の機器を用いた水質の連続観測を実施すると同時に,採水による多項目の水質ならびにプランクトン存在量の現地調査を実施した.また2014年度以降には,大鶴湖を対象に同様の調査を新たに実施し,海域での有害赤潮に加えて淡水赤潮のデータベースの構築を試みた.この結果,鹿児島湾におけるシャットネラ赤潮形成時の水質データについては,先行研究によって得られた2008年のデータに加えて,2015年のデータを新たに充実化することができた.特に,2008年とは異なり,2015年においては,2~3日に1回という高頻度で栄養塩を含む水質の連続時系列データを赤潮発生期間中に取得することができた. 得られたデータを対象として,数値シミュレーションにより,低次生態系モデルの可能性と限界について検討を行った.この結果,モデルパラメータとして与えられる「植物プランクトン内の炭素とクロロフィルaの比」ならびに「サブシステント・セルクオタ」の値の設定により,生態系モデルの結果が大きく変化することが分かった.上記のパラメータを現地調査より決定することは容易でなく,またモデル化の枠組みも多様であるため,これらの値の設定方法を明らかにすることが赤潮シミュレーションの可能性を高める重要なポイントであることが示唆された. 工学的なアプローチとしては,赤潮や植物プランクトンの動態を規定する水質指標の時系列データを,多項目にわたり高頻度に取得し,これらを逆推定すること,さらにそのような知見を蓄積することが,赤潮シミュレーションの可能性を高める有効な手段と言える.
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