本研究では,堆積軟岩ならびに堆積粘性土(粘土と砂礫からなる材料)を対象として,これが浸食されるメカニズムの解明を目指しました.主な研究成果は以下の通りです. 粘着性土は水流による浸食作用を受けるほか,上流側から輸送されてくる砂礫の接触や砂礫の堆積の影響を顕著に受けます.本研究では,これまであまり検討されることのなかった砂礫による影響に注目し,移動床水理実験を行いました.これにより,供給砂礫の量に応じて河床が異なる動的平衡状態に達することを見出すとともに,その鉛直構造を明らかにしました.粘土河床上に砂礫が供給されると,河床表面下に砂礫が取り込まれ,粘土と砂礫からなる混合層が形成されます.そして,砂礫の供給量がある閾値を超えると,混合層内の砂礫が十分にかみ合った状態に達し,これ以上の浸食がほとんど生じない「擬似平衡状態」に到ることがわかりました.この一連の浸食のプロセスは,砂礫が粘土河床面に直接接触することにより生じる浸食促進効果と,砂礫が河床表面を覆うことによる遮蔽(あるいは被覆)効果の両方を受けながら進行することが定量的に明らかになりました. また,斜面が粘土のみ,あるいは粘土を一部含有した砂礫によって構成されている場合を検討の対象として,豪雨時に発生する表面浸食とこれにより生じる流路群形成プロセスについての水路実験を行いました.一連の水路実験を通じて,表面浸食ならびに流路群形成のプロセスに及ぼす「土砂の粘着性」の影響について明らかにしています.さらに,この浸食現象を数値予測可能とする手法を新たに開発し,これにより上記の実験結果がかなり適切に再現できることもあわせて明らかにしました. 近年,鬼怒川や多摩川などの実河川で堆積粘性土あるいは軟岩の浸食に伴う問題が指摘され,その対策が求められています.本研究の成果は,この現象解明に向けた確かな基礎となるものと考えています.
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