研究課題/領域番号 |
24560630
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岐阜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
和田 清 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (50191820)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 魚道 / 水中音響 / 遺伝的多様性 / マイクロサテライトDNA |
研究概要 |
本研究では、水理実験と現地調査により、水中音響特製の観点から、1)魚道における機能評価、2)魚類生息場における音環境の適性基準を導入した評価、3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明について実施した。現地調査としては、岐阜県阿木川ダム湖を対象として、稚アユの再生産過程、既設魚道(阿木川)と新設魚道(岩村川)による遡上調査、特に、新設魚道入口における水中音響を利用した呼び水効果の評価を行った。ダム湖のようにバックグランド(雑音)の音圧レベルが低い場所では、水流とともに落下流による水中音響による集魚効果が効果的であることが、魚群探知機やビデオ観察などにより確認された。さらに、新設魚道末端とダム水位には、稚アユの遡上期に大きな落差が生じるため、フロート式+パイプ式魚道を提案した。現地実験では、稚アユの遡上期を外したため、トラップ内に放した人為的な遡上実験によりダム湖からフロート内の貯水タンクに遡上する効果を確認した。さらに、フロートと魚道本体を接続するパイプ式魚道(管路内を急拡・急縮管を連続させ、エネルギー減衰を大きくして魚類の突進速度以下に減速する魚道)を考案し、水理実験により所定の水位差と急拡・急縮管の個数、内部流速などの算定式を求めた。 さらに、阿木川湖では稚アユが再生産する特徴があり、人工的な貯水環境における稚アユ(琵琶湖産、海産、人工種苗など)が遺伝的にどのような特性を持っているかをマイクロサテライトDNA分析(実態)、また閉鎖的な環境下で将来的にどのような遺伝的多様性が変化するかを数値モデル(予測)による算定している。加えて、小河川や農業用水路における生態系配慮構造物の機能を評価するために、魚類調査や流況調査、さらには流量変動によって構造物の微地形や凹凸形状が魚類の一時的な避難場所等にどのように機能するかを粒子法を用いた数値モデルにより明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1)魚道における機能評価、2)魚類生息場における音環境の適性基準を導入した評価、3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明を三本柱としている。 1)魚道における機能評価については、従来の発想にはない魚道形式をした。すなわち、魚類の遡上が困難となる落差では、簡易的な魚道の設置が必要となることを提案した。そのアイデアは、パイプ式魚道(管路内を急拡・急縮管を連続させ、エネルギー減衰を大きくして魚類の突進速度以下に減速する魚道)である。水理実験により所定の水位差と急拡・急縮管の個数、内部流速などの関係は求めているので、今年度は、現地調査により稚アユ、オイカワ、ヨシノボリなどの在来種を用いた現地実験を実施する予定である。 2)魚類生息場における音環境評価については、ダム湖のようなバックグラウンドが静穏な場所では効果が確認されたが、通常の河川などの多種類のノイズが混在している場所では、単に音を収録分析するだけではなく水中音響スピーカーを利用して、生息場の環境を器として捉えてその共鳴などの音振動スペクトル特性の変化まで定量的に評価する必要がある。これについても継続して実施する。 3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明については、遺伝的な多様性を把握するマイクロサテライトDNAによる分析をダム湖の稚アユを対象にして行った。阿木川ダム湖の個体群は、琵琶湖産、海産、人工種苗などに比べて、海産系と同程度に多様性が保持されていることが明らかとなった。今後は、小河川・農業用水などにおける個体群のネットワーク(遺伝的交流)の実態解明を根尾川流域の農業用水路網において実施予定である(対象魚:タモロコ、ドジョウなど)。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、計画は概ね順調に進展しており、より確実な成果とするためには以下の点を重点的に行う。 1)パイプ式魚道の開発: パイプ式魚道は、大きな落差でも減速装置により魚類に選好速度に応じた流速調整が可能であり、任意の地点に設置することができるので、魚道のない水路、魚道の機能していない地点、遡上魚が魚道を関知できず魚道のない水域に迷入した場合などに利用できる簡易的な遡上設備として期待されるが、課題もある。サイフォン式に伴うパイプ内の空気抜き地点、流速生魚のためのデフューザーの設置間隔、下流端位置の選定方法などを水理実験および現地実験により明らかにする。 2)魚類生息場における水中音響システム: 通常の河川などの多種類のノイズが混在している場所では、単に音を収録分析するだけではなく水中音響スピーカーを利用して、生息場の環境を器として捉えてその共鳴状態などの音振動スペクトル特性の変化まで定量的に評価する必要がある。音の発生源の周波数特性とともに建築音環境などで使用されている残響チェック音のライブラリーを利用して、生息場の音環境特性を評価する。 3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明: 小河川・農業用水などにおける個体群のネットワーク(遺伝的交流)の実態解明を根尾川流域の農業用水路網において実施する。対象魚として遊泳力が比較的弱く、水田・農業用水・小河川を生活史に応じて行き来するタモロコ、ドジョウなど想定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記に示した研究の推進方策を実施するためには、以下のような研究費の使用計画を想定している。 1)パイプ式魚道の開発: パイプ式魚道は簡易的な遡上設備であり、稚アユの遡上が阻害されている地点による現地実験が早急に必要である。サイフォン式に伴うパイプ内の空気抜き地点、流速生魚のためのデフューザーの設置間隔、下流端位置の選定方法などを水理実験および現地実験により明らかにするためには、外部の研究者 (豊橋技術科学大学名誉教授など)との共同実験が必要である。研究費としては、パイプ式魚道製作にかかる材料費などに加えて、研究者の旅費(現地調査:岐阜県根尾川)が必要になる。 2)魚類生息場における水中音響システム: 水中音響スピーカーを利用して、生息場の環境を器として捉えてその共鳴状態などの音振動スペクトル特性の変化まで定量的に評価する必要がある。そのため、現地で利用可能なポータブルな水中音響スピーカーが必要である。 3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明: 小河川・農業用水などにおける個体群のネットワーク(遺伝的交流)の実態解明を根尾川流域の農業用水路網において実施する。対象魚としてタモロコ、ドジョウなど想定しているので、これらのマイクロサテライトDNA分析に必要なキット類、薬品類、器具類、旅費(農村工学研究所:つくば市)などが必要である。
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