本研究では、水理実験と現地調査により、1)魚道カルテにおける機能評価の分析、2)サイフォン式パイプ魚道を用いた改善策の実証、3)在来魚類の個体群間の遺伝的交流の実態解明について実施した。具体的には、岐阜県が進めている673箇所の魚道カルテデータの分析と機能不全に陥っている対策案、さらには昨年度に引き続いて、サイフォン式パイプ魚道の実証実験を行った。現地河川および農業用水路における遡上実験より、落差1~2m程度の堰において管内流速を魚類が遊泳する突進速度以下に低減させる流速制御の構造形式を考案し、魚類の生息場改善案としてサイフォン式パイプ魚道の有効性を評価した。その結果、現地に設置後のモニタリング期間において、サイフォン効果により途切れることなく流水状態が維持され、現地の在来魚が管内に侵入し、本魚道を遡上する様子が確認されている。また、より遡上率を高めるために、鉛直部の2箇所に一時的に休憩可能な止水域を設置し、管内の遊泳行動を観察のために透明な塩ビ管に改良した。これらの現地遡上実験により、サイフォン式パイプ魚道が遡上機能ツールとして有効であることが明らかとなった。さらに、遺伝的多様性では、タモロコが河川、農業用水、水田を往来し、生態系ネットワークの連続性を把握する上で主要な魚種とした。そのタモロコのマイクロサテライトDNA分析による遺伝的多様性を検討するために、12遺伝子座の中から、ヘテロ接合度の出現割合が80%以下のプライマーを絞り込んだ結果、6遺伝子座が比較的偏りが少なく犀川流域のタモロコに有効であることが明らかにされた。この結果を用いて、同一流路網において遺伝的多様性が急変している場所を抽出し、その要因分析と生息場の保全策とネットワーク強化策を検討した。
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