研究課題/領域番号 |
24560633
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人土木研究所 |
研究代表者 |
佐山 敬洋 独立行政法人土木研究所, その他部局等, 研究員 (70402930)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | RRIモデル / 洪水予測 / チャオプラヤ川 / 氾濫 / 時空間起源 / 蒸発散 |
研究概要 |
本研究は、世界各地で発生する大規模な洪水を対象に、流域全体で降雨流出から洪水氾濫までを一体として予測することを目的としている。また本研究で用いる降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)をもとに、河川を流れる水や平野部を氾濫する水が、いつ・どこに降った雨で構成されているのかを分析する。これにより、大規模洪水の要因を明らかにすると共に、広域での洪水予測精度を向上させる。 研究初年度にあたる本年度は、1. 蒸発散とその抑制を考慮したチャオプラヤ川全流域の長期流出氾濫計算、および2. 河川流出・洪水氾濫の時空間起源を分析するT-SAS(Time-Space Accounting Scheme)手法のRRIモデルへの導入を行った。以下にその内容をまとめる。 1.では、ペンマンモンティース法を用いて蒸発散量を推定するとともに、土壌水分量に応じた蒸発抑制を考慮できるようにRRIモデルを改良した。1960年から2011年までの52年間にわたるチャオプラヤ川流域の流出氾濫を計算した結果、月流量はナッシュ指標で0.7から0.8程度、浸水面積の相対誤差は20%程度、2011年について氾濫域の浸水深は約1m以内の誤差で再現できることが分かった。また長期シミュレーションの結果を水収支の観点から解析することにより、降雨の変動が流出量や氾濫量の変動にもたらす影響を分析した。 2.チャオプラヤ川流域の2011年大規模洪水氾濫が、主としていつ・どこに降った雨によってもたらされたかを明らかにするために、RRIモデルにT-SAS手法を導入した。この結果、本川のナコンサワン地点を流れるピーク時の河川流出は、その約80%が7、8、9月に上流域に降った雨で構成されていること、下流域の氾濫の約35%はその場所に直接降った雨で構成されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の計画は、RRIモデルの拡張による長期連続計算の実現と、改良モデルによる2011年タイ洪水の検証を達成目標にしていた。大規模な流域を対象にして、降雨から流域全体の河川流量・洪水氾濫を連続計算する試みは新しいものであり、その再現性を多角的に検証するとともに、同シミュレーションの特徴を活かして、各年の降水量と流出・氾濫量との関係性を分析した。また次年度以降に着手予定であったT-SAS手法のRRIモデルへの導入の研究も進み、上述の結果を得ることができた。これらの内容は、本研究の最終目標である「世界の大規模洪水を対象とした降雨流出氾濫現象の解明と予測」に沿ったものであり、当初の計画以上に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究を発展させるうえで、RRIモデルへのT-SASの導入方法について、より詳細な検討・改良が必要である。今年度に実施したT-SAS手法の導入方法は、RRIモデルの各グリッドセルで水が完全に混合し、流出起源が同じであるという仮定に基づいて解析を行った。今後、より詳細に検討をするためには、各地点の水を地表流・土壌水・地下水等に分類し、それぞれ異なる成分を持たせて分析することが大切である。またRRIモデルの改良と予測精度の改善という観点では、平野部の地下水をモデルで簡潔に表現することも大切となる。本年度に実施した長期計算の結果、河川流量の低減部でモデルの精度が低下する傾向も確認されており、これらの問題は、地下水や蒸発抑制のモデリング改良で改善することが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度で降雨流出氾濫シミュレーションを効率的に実施するための計算機整備は概ね完了したので、本年度の研究費は、主として学会発表、関連資料の購入、論文投稿料等に利用する。具体的には、4月にオーストリアで開催のEuropean Geoscience Union (EGU)の総会に出席し初年度の研究成果を発表する。また、水文学・地下水関係を中心に関連の書籍を購入する。さらに国内論文(2件を予定)、国際論文(1件を予定)に際する論文投稿料への研究費の使用を予定している。
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