研究課題/領域番号 |
24560633
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研究機関 | 独立行政法人土木研究所 |
研究代表者 |
佐山 敬洋 独立行政法人土木研究所, その他部局等, 主任研究員 (70402930)
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キーワード | 水文モデル / 時空間起源 / 降雨流出氾濫 / RRIモデル / T-SAS / チャオプラヤ川 / 洪水 |
研究概要 |
本研究は、世界各地で発生する大規模な洪水を対象に、流域全体で降雨流出から洪水氾濫までを一体として予測することを目的としている。また本研究で用いる降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)をもとに、河川を流れる水や平野部を氾濫する水が、いつ・どこに降った雨で構成されているのかを分析する。これにより、大規模洪水の要因を明らかにすると共に、広域での洪水予測精度を向上させる。 研究二年度にあたる本年度は、チャオプラヤ川流全流域を対象にした長期流出氾濫計算に基づく2011年タイ洪水の現象分析と、および、2. 河川流出・洪水氾濫の時空間起源を分析するT-SAS(Time-Space Accounting Scheme)手法の改良を行った。以下にその内容をまとめる。 1. 2011年タイ・チャオプラヤ川流域の洪水は、平年よりも約1.4倍の降雨が観測史上最大の洪水被害をもたらした。この降雨量がタイ洪水の広域氾濫量にどの程度影響を及ぼしたのかを明らかにするため、52年間の連続計算を実行し、その結果を水収支解析した。その結果、6か月降雨の増加に対するピーク氾濫量の増加が0.3となることを明らかにした。この値は、流域平均雨量が400mm増加する(平年の1.4倍になる)と、氾濫量が流域全体で120 mm(200億m3)増加することを意味する。この量はブミポン・シリキット両ダムの総貯水量(230億m3)に匹敵する氾濫量の増加であり、2011年洪水をもたらした降雨量とそれによる氾濫量の特異性が明らかになった。 2. チャオプラヤ川流域の洪水が、主としていつ・どこに降った雨によってもたらされたかを明らかにするため、RRIモデルにT-SAS手法を導入した。昨年度の実施内容に加えて、地表面と地下水を通過した水を別に取り扱えるようT-SAS手法を改良し、どのような経路を通った水が流出・氾濫しているかを分析できるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画は、長期連続の降雨流出氾濫シミュレーションに加え、RRIモデルにT-SAS手法を組み込むことを達成目標としていた。上述の通り、本目標は順調に進捗したものと自己評価している。加えて、本年度の研究によりT-SAS法をより汎用的なものに改良することができたので、大規模洪水の流出・氾濫水の時空間起源をより精度よく推定できるようになった。さらに、RRIモデルの英語マニュアルを整備し、オープンソースコードにすることにより、同モデルの利用がさらに広まった。実際にタイ洪水支援プロジェクトにRRIモデルが応用されるなど、研究面だけでなく実務面でも応用が進みつつある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、RRIモデルを一部改良(地下水の考慮)したうえで、開発手法の応用研究を進める。これまで着目してきたタイ・チャオプラヤ川流域に加え、2010年に大規模洪水が発生したパキスタン・インダス川流域や、毎年広域の氾濫が発生するインドネシア・ソロ川流域なども検討の対象とする。またT-SASは、いつ・どこに降った雨がどの程度流出や氾濫に寄与しているかを分析することができるので、治水計画上の設計降雨を合理的に決めるなど、水工学的な応用範囲も広い。最終年度は、手法のとりまとめ・プログラムの整理・論文の執筆を進めながら、開発手法のより広範な応用分野を整理する。
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次年度の研究費の使用計画 |
概ね当初計画の通り予算を執行した。 主として研究成果の学会発表や論文投稿料に利用を予定している。
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