本研究では,政策への賛否を問うアンケート調査において,その政策に関連の深い調査項目を挿入した場合に,政策への賛否の影響を明らかにすることを目的として,Web調査と紙面による調査を,それぞれ実施した.設定した政策は「コミュニティにおける相互送迎サービス」であり,関連する調査項目は「交通権」への認知や考え方を問う設問とした.紙面調査は,バスサービスの水準が低い一地区を対象とした調査である.一方Web調査は,全国を対象とした調査であり,標本の偏りを避けるために三大都市圏とそれ以外の都市圏の標本数が国勢調査の標本数に一致するようにサンプルを割り付ける設定の下で実施した.なお同設問の効果を検証するために,その設問を含む調査票と含まない調査票をランダムに配布した.紙面調査の結果,75歳以上の男性に交通権に関する設問を設定すると,コミュニティにおける相互送迎サービスに反対する傾向が強くなることが明らかとなった.しかし同設問を設定しても,政策への賛否があいまいな「わからない」という回答に大きな違いは見られなかった.Web調査の結果も紙面調査の結果と類似しており,交通権に関する設問を行うことによって,特に高齢者の一部でコミュニティにおける相互送迎サービスへの反対意向が高まること,政策への賛否があいまいな層は減少しないことが明らかとなった.なおWeb調査では,回答者の居住するコミュニティ環境が多様なため,政策への賛否の傾向が,やや現れにくい傾向が見られた.両調査から,相互扶助政策に関連して権利意識を刺激するような設問を前段に置くと,一部の高齢者はその設問の存在によって政策への賛成度を低下させる傾向が明らかとなった.すなわち高齢者は,調査票の設問を通じて政策への理解と認知を深める傾向が明らかとなった.
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