研究課題
本研究では,熊本市の壺川地区を対象とした氾濫シミュレーションの結果を基に浸水域を4段階の危険ゾーンに分類した.そして,特に危険度の高いゾーン3とゾーン4に焦点を絞って,遊水池建設前後でのリスクカーブを求めた.壺川地区での被害は大半がゾーン3であることが分かった.ゾーン4では,遊水地整備前より整備後の方が被害額が大きくなる確率が高いことが分かった.そこで,対象地域の住宅と商業用途を対象にいくつかのシナリオのもと土地利用規制を実施したときの効果をVaR指標で評価した.遊水池を建設せずに浸水域全体に土地利用規制を行った場合より,規制をかけずに遊水地整備を行った方が被害額の減少が大きいことが分かった.しかし,ゾーン4に着目した場合,98%水準までは遊水地整備による効果が大きいが,それ以上では土地利用規制による効果が遊水地整備による効果を上回ることが分かった.これらの結果から,水害被害を抑えるためには遊水地整備等のハード整備は不可欠であり,さらに危険度が高い地域では,土地利用規制の実施の必要性が確認された.熊本県は,北部九州豪雨で甚大な被害を受けた阿蘇市および南阿蘇村を対象に,夕刻の時点で深夜に大雨が予想される際に明るいうちから避難を促す「予防的避難」の取組みを平成25年度より始めた.しかしながら,予防的避難を実践した住民は少なく低調であった.そこで,予防的避難が低調だった原因を探るため,阿蘇市および南阿蘇村の全世帯を対象に行った避難意識や避難行動に関するアンケート調査を行った.防護動機理論を援用して,予防的避難行動の阻害要因と促進要因を共分散構造分析により抽出した.阻害要因となっているのは,避難移動や避難所で過ごすこと等の負担感であることが分かった.一方,促進要因となっているのは,どれくらいの確率で被災するか,どの程度の被害かといった自然災害に対する脅威であることが分かった.
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