研究実績の概要 |
本研究では,宮城県漆沢ダム貯水池の湖底泥における休眠細胞数の違いがアオコ発生に及ぼす影響を室内実験により評価した.また,室内実験から得られた結果と既往研究により得られた現地のデータから,休眠細胞の影響を考慮した藻類競合モデルを作成し,室内実験の結果を検証するとともに,現地の環境条件において休眠細胞数がアオコ発生に及ぼす影響を考察した. 底泥は最確法(MPN法)により休眠細胞の計数を行い,27,000cells/g-wetという結果を得た.室内実験は,採取した底泥とそれの比率を10%,1%に変えた底泥の3系を用い,そこにろ過した現地の表層水5Lを加えた水槽で行った.この水槽にはAnabaena spp.と競合させるため,現地で出現する緑藻類Scenedesmus sp.を1,000cells/mL投入し,藻類種の変動を多波長励起蛍光光度計を用いて測定した. その結果,室内実験およびモデル解析の双方から,休眠細胞数がアオコ発生に強く影響することが分かった.また,従来のアオコ発生に必要不可欠とされていた水中の窒素,リンに全く依存せずに休眠細胞による発芽のみで優占化できることが分かり,少なくともアオコ発生の初期段階では貧栄養下でも底泥中の休眠細胞数が多ければAnabaena spp.が優占化する可能性があることが分かった.現地は中~貧栄養であり,夏季は特にリン枯渇が著しいが,休眠細胞による発芽で短期間に個体数を増やし,その後,リン摂取速度が他の藻類より数倍速い特性や,窒素固定・垂直移動が可能な能力を利用し,限られたリンをAnabaena spp.が独占的に利用することで,漆沢ダムにおいてアオコが発生・維持される機構を示唆することができた.
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