研究課題
基盤研究(C)
偏光を利用した光散乱式粒子計測器(以下偏光OPC)の試作器を用いて,福岡大学(福岡県福岡市)において連続観測を実施した.微粒子の粒径別個数濃度と偏光度が特徴的な期間を調べ,その期間の気塊の起源を後方流跡線解析により推定した.これらの結果から,微粒子群を大気汚染粒子,鉱物粒子,海塩粒子の3種類に分類する条件を決定した.各分類ごとに微粒子の密度を仮定し,偏光OPCの個数濃度の測定結果から各粒子群の重量濃度を推定した.大気汚染粒子は数日から数週間の周期で濃度が上昇した.濃度範囲は1から5マイクロg/m3程度であったが,20を超えた期間もあった.鉱物粒子はおもに黄砂が飛来する時期である春季と秋季に濃度が上昇した.その際,濃度は50マイクロg/m3を上回った.海塩粒子は,大気汚染粒子と同じく数日から数週間の周期で濃度が上昇する傾向が見られたが,その時期は大気汚染粒子とは異なっていた.濃度範囲は5から20マイクロg/m3程度であった.テープ式吸収計で測定された微粒子の吸収係数と粒径および偏光度別の粒子数濃度との相関を調べたところ,決定係数が0.3程度の相関しかみられなかった.偏光OPCの検出下限粒径が0.5マイクロmであり,高い吸収性を持つ微粒子である黒色純炭素の代表的な粒径がこの検出下限粒径より小さいためだと考えられる.新規に開発した偏光OPCをを用いて,2013年2月より山梨大学(山梨県甲府市)においても連続観測を開始した.甲府気象台の記録と比較したところ,黄砂として記録されている期間において相対的に鉱物粒子の重量濃度は増加していたが,記録がない期間においても高濃度を示していた.また,煙霧と記録されていた期間は大気汚染粒子の重量濃度が増加していたが,鉱物粒子の濃度も高濃度であった.気象台が視程を基準に煙霧や黄砂を判定しているためにこのような食い違いが起きたと考えられる.
2: おおむね順調に進展している
研究の最終的な目標は,自由対流圏中の越境輸送微粒子の動態を明らかにすることである.そのために自由対流圏中の大気を観測することができる山岳域での測定を計画している.現在までに山岳域で越境輸送微粒子を組成別に測定可能な計測器の開発を進めてきており,微粒子をおおまかに3種類に分類し,それぞれの重要濃度を推定する手法を開発した.また,山岳域は一般に電源などの制約を受けるため,独立電源や外部から制御しなくてもよい無人測定可能な測器が必要である.独立電源として,風力発電機と太陽電池パネルを組み合わせ,蓄電池に充電するシステムの準備を現在進めている.また,測定中に機器の異常が発生しても自動的に復旧する計測器の制御プログラムの開発を進めている.
平成25年度の夏季に富士山頂において,自由対流圏中の越境輸送微粒子の連続観測を実施する予定である.しかし,富士山頂での観測は,使用する富士山測候所の使用期間に制限があるため,7月中旬から8月下旬までに限られている.その後の観測は,富士山五合目において独立電源を使用し,観測を継続する計画である.これまでの研究で微粒子の組成別の重量濃度を推定する方法を開発した.この手法の精度を評価するためにフィルターサンプリングを偏光OPCの観測と並行して実施し,化学成分の重量濃度と偏光OPCにより推定した重量濃度とを比較検討する.富士山五合目での観測を実施するためには,独立電源システムを完成させるとともにこのシステムにより偏光OPCを駆動させるために必要な電力を供給しなければならない.富士山五合目における気象条件や設置条件により,独立電源システムにより十分な電力を供給できない可能性が考えられる.また,富士山五合目にアクセスする際に使用する富士スバルラインは,冬季に積雪がある場合,通行止めとなり機器のメンテナンスができない場合がある.そのため,富士山五合目での自立観測が不可能であると見込まれる場合には,他の山岳域での観測を検討する.例えば木曽駒ヶ岳は冬季もロープウェイで標高2600mの千畳敷にアクセスすることができる.このような候補地での機器の設置や電源の供給の可能性について調査を進める.
該当なし
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Proceedings of SPIE
巻: 8526 ページ: 852609
doi:10.1117/12.979634