研究課題/領域番号 |
24560660
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
小林 拓 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (20313786)
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キーワード | 自由対流圏 / 越境汚染 / 大気微粒子 / 黄砂 / 偏光光散乱式粒子計測器 |
研究概要 |
偏光光散乱式粒子計測器(以下偏光OPC)を富士山頂に7~8月の間,設置し観測を実施した.12月より,年間通し自由対流圏の大気を採取することが可能な山岳域(木曽駒ヶ岳千畳敷)に設置し,連続観測を開始した.機器の制御・監視を行うために携帯電話網を利用し,千畳敷に設置した機器の制御用パソコンに,山梨大学から24時間接続できるようにネットワーク環境を整備した.これまでトラブルは無く順調に観測を継続している. 平成26年2月21日には,日本の都市域よりも高い粒子濃度を観測した.気塊の起源を検証するため後退流跡線解析を行った結果,大陸から飛来していたことがわかった.同年3月12日にも,粒子濃度が増加した.特に粗大粒子の濃度が高く,典型的な黄砂状況となった.この時の後退流跡線は,大陸内陸部からの飛来を示しており,また,環境省が展開するライダー観測より上空1~3kmに黄砂層が観測されていた.地上に設置した機器では,この黄砂層を捉えることができておらず,自由対流圏に位置する山岳域に観測機器を設置した優位性が明らかとなった事例であった. 千畳敷に設置した偏光OPCは,黄砂のような粗大粒子の測定を目的としているため,チューブ内部での損失を避け,チューブ長を短くし,また,採取空気の除湿などは行っていない.そのため,千畳敷に霧が発生した場合,霧粒子(すなわち雲粒子)を吸引してしまうことがわかった.粒径分布より霧の発生をある程度,判別できることを示したが,完全ではないため,判定方法の検討が必要である. 偏光OPCにより得られた粒径と形状に関する情報から微粒子の組成について推定するため,偏光OPCの観測とフィルターサンプリングを平行して実施し,化学成分との関連を調べた.また,クラスター解析も実施し,統計的に関連性を調べた.現在,これらの結果から,組成推定法について検討を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最大の目標である山岳域での通年観測を予定どおり開始した.その結果,地上に設置した機器では捉えることのできない自由対流圏を飛来する黄砂や人為起源微小粒子を捉えることができた. 偏光OPCで得られた結果から微粒子の組成に関する情報を推定するため,化学分析や統計解析を実施し,組成推定法についてまとめつつある.この推定法について特許の出願を予定している.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,木曽駒ヶ岳千畳敷に設置した偏光OPCを維持管理していく予定である.これまでの観測で霧発生時の雲粒子吸引の問題が明らかとなった.よって霧(雲)発生の判定をより正確にするために気象計による相対湿度の測定,webカメラによる天候の判断を行う予定である.気象計は気象研究所が設置したものがあるため,データの共有方法を検討する.webカメラはロープウェイ会社が公開している画像があるため,webサイトに定期的にアクセスし画像を保存する方法を検討する. 現在,千畳敷以外にも国内外を含め複数地点で偏光OPCによる観測を進めている.これらの観測結果を複合的に解析することにより越境微粒子の挙動を広範囲にわたり捉えることを計画している.この際,各地点に設置された偏光OPCの特性を揃えておくことが得られた観測結果を比較検討する上で重要である.そこで,偏光OPCの出力信号を再現できる測定器内部の光学系を模擬した光散乱計算ルーチンを開発する.これにより形状や粒径が既知である標準粒子を測定した際の偏光OPCの出力信号を予測することができ,実際の信号との比較をすることで器差を把握することができる.
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末に偏光OPCの制御用パソコンの入れ替えのため,木曽駒ヶ岳千畳敷までの旅費を予定していたが,日程調整ができず出張を取りやめたため,次年度使用額が生じてしまった. 物品費として偏光OPCの消耗品等,散乱計算用の計算機,旅費として機器メンテナンスのため木曽駒ヶ岳千畳敷の往復,研究発表のため福岡県福岡市の往復,その他として携帯電話網利用料と観測機器を設置した観測箱の除雪委託費用を予定している.
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