研究課題/領域番号 |
24560662
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
城戸 由能 京都大学, 防災研究所, 准教授 (50224994)
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研究分担者 |
中北 英一 京都大学, 防災研究所, 教授 (70183506)
山口 弘誠 京都大学, 防災研究所, 助教 (90551383)
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キーワード | 都市雨水排除 / ノンポイント負荷削減 / レーダー降水量 / 予測精度 / 雨水貯留施設 / 緊急排水操作 / 実時間制御 |
研究概要 |
都市域の浸水防止目的で整備された雨水貯留施設を活用してノンポイント負荷源由来の初期汚濁雨水を貯留・処理することが検討されているが,同一施設において両目的を達成するためには浸水被害をもたらす豪雨が予測された場合に汚濁負荷削減目的で貯留した初期流出雨水を速やかに排水して浸水防止目的のピークカット貯留に備えるための緊急排水操作を導入する必要がある.近年,より高解像度・短時間の降雨観測が可能な最新型X-bandレーダーが主要都市部に整備されるとともに,その観測データを用いた降雨予測手法の精度向上が図られており,これに基づく雨水貯留施設の操作ルールを作成することを本研究の目的としている. H25年度には,まず,従来型C-bandで開発された降雨予測モデルを改良して最新型X-bandレーダー観測雨量データを用いた降雨予測を行いその精度比較を行った結果, C-band(1km)と同程度の降雨推定および予測精度が得られた.次に,降雨予測モデルが過去のレーダー画像に基づいて降雨域を移流させるものであり,雨域全体の移動状態を予測しているため対象流域直上の降雨域を確実に予測できている保証が無いことを考慮し,対象流域周辺の予測雨量情報を対象流域に与えて流量予測を行い,初期貯留-緊急排水操作を実施することで,より安全側にたった実時間制御方策を検討するためである.具体的には,対象流域を中心とした一定距離までの周辺領域の予測降雨量の平均値や最大値を採用して流量予測を実施し,浸水リスクを増大させずに緊急排水が確実に実施できる方策を評価した.その結果,C-band(1km)では周辺3kmまでのグリッド,X-band(250m)では周辺2.5kmまでのグリッドの予測雨量情報から最大値を用いた緊急排水実施の判定を行うことで的確な緊急排水操作が実施され,浸水リスクが増大しないことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は最新型X-bandレーダー降水量データを用いた降雨予測を実施し,従来型C-bandレーダーを用いた降雨予測との予測精度の比較評価を行い,X-bandレーダー降雨予測モデルの改良により1kmグリッドC-bandレーダーと同等の予測精度が得られることが確認できた.また,豪雨事例数も12事例に増やして,C-bandおよびX-bandレーダー雨量情報を用いた予測雨量に基づく雨水貯留施設の実時間制御の評価を実施した.さらに,降雨予測の空間的誤差を考慮して,対象流域を中心とする周辺領域の予測降雨情報を含めた流出解析-緊急排水操作実施の判定を行うことで,現状の降雨予測精度でも浸水リスクを増大させることなく実施可能な実時間制御のためのレーダー予測雨量情報活用方策についての基礎的な解析が実施できた.ただし,X-bandレーダー降雨予測モデルについてはさらなる改良を加えることで予測精度向上が期待できるので,次年度に改良を進めX-bandレーダーの優位性を明らかにすることが重要となる. 以上のように,最新型X-bandレーダー降水量データを直接利用した予測降水量に基づく雨水貯留施設の実時間シミュレーションによる浸水危険度の評価のためのツールはほぼ完成しており,前年度に作成した汚濁負荷流出モデルと組み合わせて,浸水防止と汚濁負荷削減の両目的を達成するための雨水貯留施設の実時間制御のルール作りに向けた研究の枠組みが準備できており,本研究の全体的な達成度はおおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は,まずX-bandレーダー降雨予測モデルの改良を実施する.基本的なモデル構造は従来型のC-bandレーダーに適用されてきた移流モデルを用いるが,X-bandレーダーの時空間解像度の高密性を考慮して,移流ベクトル算定の領域・時間間隔の適性化や予測更新時間の改善を行うことで,C-bandレーダーと比較してより高精度の降雨予測を目指す.これにより,雨水貯留施設の実時間制御に利用する予測降雨情報が改善され,空振りや見逃しの少ないより安全で的確な緊急排水操作が実施できることを検証する.また,X-bandレーダー情報の蓄積により複数年間を通した降雨事象を解析対象とした連続シミュレーションを行い,緊急排水操作を伴わない小降雨時を含め,初期貯留によるノンポイント汚濁負荷削減量を定量的に評価する. 今年度の研究過程で降雨予測精度・予測リードタイムおよび初期貯留容量設定・緊急排水用ポンプ容量の関係が浸水リスクの増減に大きく影響するので,前者については上述の降雨予測精度の向上に基づいた評価を行う.後者については,対象流域のみならず,他流域への適用も視野に入れ,流域規模・性状を考慮した上で設備施設の容量等の設定を複数準備することで,雨水貯留施設設計の要件整理も検討する予定である. 当初計画で検討課題とした合流式下水道越流水対策のための貯留施設の操作は既存下水道管渠の流下能力を越えた越流雨水を貯留するため,浸水防止目的と必ずしもトレードオフの操作とはならず,降雨予測に基づく実時間制御の必要性が低く,かつ,豪雨時の緊急排水操作についても,分流式下水道区域の操作ルールが基本的に適用できる.そのため,本研究ではレーダー予測雨量情報の時空間的な予測精度および周辺領域の予測情報の活用方策に重点をおき,最終的なとりまとめを実施する.
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