既存の河川生息場評価モデル(PHABモデル)では、ともすれば単調で生物が少ない河道であっても、特定種の特定の生息段階に対して高評価をもたらす場合がある。実際には複数種・複数成長段階に対する評価を総合判断することでこの欠点は避けられるが、PHABモデルの簡便さが失われるため、結果的にPHABモデルの普及の妨げになっている。本研究の目的は、多様な生物が生息する河川環境が高評価となる河川物理生息場評価手法を開発し、1回の計算で多様な生物に対する総合的な生息環境の良否を評価できる河川物理生息場評価ソフトウェアを作成することである。 平成24年度、25年度で、善和川、九田川、一の坂川、厚東川において魚分布調査および流速、水深、底質、カバーなどの物理環境調査を実施した。この4河川12区間の調査結果に対し、本研究で開発した多魚種の生息場適性指標(HSI)を加味して物理変数の多様性を表す生態環境多様性指標と、魚の生息状況を表す種々のパラメータの関係を調べた。その結果、生態環境多様性指標と、オイカワ・カワムツ稚魚を区別して1種として扱った魚種数との間に、すべての河川において正の関係性が見られた。魚種数は生物多様性を示す指標の一つであり、生態環境多様性指標が本研究の目指す環境指標であることが確認できた。 最終年度の平成26年度は、種々の流況ソルバーにより河川流況を計算できるフリーソフトウェアiRICをベースとし、流況ソルバーの計算結果を読み込んで生態環境多様性指標を計算するソルバー、DHABSIM (Diversity based HABitat SIMulation)を開発した。DHABSIMを用いて計算した各調査河川の生態環境多様性指標は魚種数と正の関係性を示した。以上より、本研究の目的は完全に達成された。
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