本研究では,火災時における高力ボルト継手の耐力・変形・破断に関する挙動を実験から明らかにし、その挙動を数値解析プログラムに組み込むための構成要素モデルを構築し、鋼骨組内部にある高力ボルト接合部の火災時・冷却過程における破断条件について検討した。具体的には以下の成果を得た。 1) 高力ボルト継手の一定高温度下での引張実験から,ボルト破断とはしぬけ破断の両者の場合について,その剛性・耐力・変形能力・破断性状を明らかにした。また得られた荷重~変位関係を用いて,高力ボルト継手の高温時構成要素モデルを構築した。さらにFEM汎用ソフトによる結果との比較から,その解析で追跡可能な範囲を明らかにした。2) 高力ボルト継手の一定荷重下での温度漸増実験から,その火災時最大耐力およびそのときに継手に生じる速度を明らかにした。その結果,一定温度下での最大耐力よりも高い値を示すこと,JIS試験における負荷方法切り替え後の引張強度を用いても問題ないことを示した。3) 加熱冷却後の引張実験および冷却時に変位を拘束した実験から,ボルト破断の場合で脆性的に破断しやすいことを示した。4) 上記1)で述べた高力ボルト継手の高温時構成要素モデルを鋼構造物の火災応答フレーム解析プログラムに組み込み,鋼構造骨組の火災時挙動に及ぼす高力ボルト接合部の影響を検討するための解析ツールを整備した。 現在,建築基準法告示・耐火性能検証法では継手等の弱点部の破断に対する上限温度が一律に定められ,我が国の頑強な接合部に対しても極めて保守的な耐火設計となっている。しかし本研究の成果から,高力ボルト継手の火災時変形能力は比較的高く,その特性を考慮すればより合理的な耐火設計が可能であることを明らかにした。また,本研究で構築した接合部の構成要素モデルも用いた解析によって,鋼骨組の火災時ロバスト性をより精確に検討できるようになった。
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