研究課題/領域番号 |
24560695
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
北原 昭男 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (00195273)
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キーワード | 木造建物 / 伝統的構法 / 地域特性 / 耐震性能 / 構造実験 / 構造調査 |
研究概要 |
地域における典型的・代表的な建物・建物群に関しては、本年度は天草市牛深地区に存する伝統的構法による漁村型住宅8棟、および熊本市近郊に存する公民館建築を対象として構造調査を行い、各建物の持つ構造的・構法的特長や建物老朽度等について明らかにし、昨年度同様の形でデータの整理を行った。また、限界耐力計算法を用いてそれらの持つ耐震性能を評価すると共に、その性能向上の方法について検討を行った。 構造実験に関しては、既存伝統構法建物の耐震性能を向上させる要素として考案した斜め貫に関して、その仕口部を対象として引張実験を行い、様々な仕様による仕口部の持つ構造特性や破壊性状を明らかにした。また、これらの持つ構造性能・耐力について比較を行うことにより、斜め貫を使用する際の耐力評価の手法に関して検討を行った。加えて、伝統和風住宅の内・外装仕上げに用いられる木ずり漆喰壁に関して、その構造特性を明らかにするために、軸組試験体5体を対象としてせん断力載荷実験を行った。その結果、伝統的構法による木造住宅の性能を向上させるのに十分な構造性能を保持していうることが明らかとなった。 地域における針葉樹やい草などの農林産品を有効に利用した居住空間の機能性向上方策に関して、それぞれの分野における関係者が集まり検討を行った。その結果、スギ材を用いた応急仮設住宅の設計方法・構築方法、スギ材を用いたパネル取付による室内環境の向上、畳が持つ室内空間における機能性評価、畳を用いた避難所向け簡易ベッドの製作などを進めることになった。仮設住宅に関しては、地元針葉樹のストック・部材供給、仮設住宅の設計・施工法などについて検討を行い、実際にモデル建物を建設してその施工性・実現可能性について検討を行った。簡易ベッドに関しても、伝統的な手法を用いて設計を行い、実際に製作することにより施工性・快適性などについて検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に基づき、伝統構法による木造建物に関する構造調査および構造実験の双方について研究を遂行した。本年度は、十分な実験・調査態勢がとりにくかったこともあり、調査および実験の実施数については当初予定よりはやや少な目となった。従って、研究予算の執行についても遅れ気味となったが、最終年度に十分態勢を整えることが可能であるため、「おおむね順調」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた構造調査の結果に加えて、対象地域を広げて新たに対象建物を選定し、調査データの補強を図る。これらのデータより、地域に共通する構造特性・耐震性能、あるいはこれらの地域差についてとりまとめを行う。 構造実験に関しては、これまでの実験に加え、伝統構法の特長を生かした新たな耐震要素、および、既存伝統構法建物の耐震性向上に有効な要素の観点から、新たな要素の開発を行い、これを組み込んだ試験体を作成し、本年度同様に静的載荷実験によって、復元力特性や破壊性状等の構造特性を明らかにする。これらの結果に基づいて耐震性能評価法としてまとめ、地域における伝統構法建物の耐震性向上のための方策としてまとめる。 また、当初研究目的に加え、地域産材の有効利用を図ると共に、居住空間の機能性を向上させるための方策について検討を行い、それぞれについて試験を行うことによって性能を評価し、さらには具体化の方策などについても検討を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は研究代表者の多忙および研究室学生の減少により、研究推進態勢がとりにくかったこともあり、構造実験および構造調査の実施件数が少なくなり、計画に記した予算が消化できなかったため。 次年度は、十分な研究態勢がとれるものと考えられ、多くの構造実験および構造調査を行う予定であり、それに従って、次年度使用額を含む全予算を消化する予定である。
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