研究課題/領域番号 |
24560711
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
梅干野 晁 放送大学, 教養学部, 教授 (50108213)
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研究分担者 |
高田 真人 熊本大学, 自然科学研究科, 助教 (30581376)
円井 基史 金沢工業大学, 環境・建築学部, 講師 (80508341)
中大窪 千晶 佐賀大学, 工学系研究科, 准教授 (30515143)
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キーワード | 設計製図 / 電子教材 / 教育支援 / 授業プログラム / 数値シミュレーション / コミュニケーションツール |
研究概要 |
本年度は,昨年度に取りまとめた建築環境設計の授業プログラムのアウトラインに沿って各授業内容を開発し,研究分担者の所属する教育機関等において実践し,最終年に向けて内容を精査した。 まず昨年度に試作した電子教材に収録する内容を精査し,想定している授業期間(90分×7回)に対応した一式を紙媒体で完成させた。そして2つの教育機関(熊本大学・大妻女子大学)において上記教材による授業を実践し,記載内容の妥当性を検証した。 また本授業プログラムにおいて,建築の初学者に空間・材料・時間での熱環境の違いを体験させるためにWebブラウザを用いた教育支援ツールの開発を行った。授業プログラムに特化したユーザインターフェースとしているため操作が容易であり,またWebブラウザとすることで,教員との情報共有が簡便に行うことができる。 一方,電子教材の内容を学生に実感させることを目的に,全7回の授業の1回として,生活空間の温熱環境の簡易実測する授業を開発し,同様に2つの教育機関で実践した。結果,学生による生活空間の環境要素の実感に関して一定の効果が確認された。 授業プログラム実践の一環としては,3D-CAD対応熱環境シミュレータ(以下,シミュレータ)を取り入れた正規の授業(専門実験・演習)の本格的な運用を金沢工業大学で開始した。建築系学部3年生約80名(2クラス)を対象とした演習授業で,過去に学生が設計した住宅について光・熱環境を改善する環境設計を課した。14班中11班(約8割)が教員やSA(アシスタント)にほとんど頼らずにシミュレータでの計算を行い,環境設計に繋げていた。この結果を踏まえ,一連の授業プログラム内で行う設計課題を設定した。 更に授業内容を踏まえて温熱環境の評価に必要な事項を精査し,環境工学を専門としていない人間にも温熱環境を評価する上での必要事項とその関係性をまとめた評価シートの概念を発案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のターゲットを,「大学の建築及び設計製図の授業を習いはじめる初学者(学部1~2年生)」に変更した。この理由は,本研究で設計課題として設定する戸建て住宅や集合住宅の屋外生活空間をデザインが,多くの教育機関において学部1~2年生で実施していること,及び地域の気候特性と建物のデザインとの関係を初期の段階から教えることが建築環境設計の実現により効果的と判断したこと,の2つからである。 その上で,まず,電子教材化を前提に,GIS・シミュレーション結果・放射カメラによる熱画像など建築環境設計に関係する異なる形態のデータをとりまとめた紙媒体の受講テキスト一式を作成し,2つの教育機関の授業で使用した。同時に,電子教材を用いた授業運営を行う上での教員用の副読本(50頁程度)の作成に向けた授業プログラム運営に関する一連のノウハウも得た。 また生活空間の環境要素の定量的な把握・実感を目的に,簡易実測を導入した授業を設計製図の経験の異なる2つの教育機関で試行した。結果,学生による環境要素の実感に関しては一定の効果が確認された。しかし知識の習得方法に関しては変更・改善が必要な点が明らかとなったので,この点を開発する教材に反映させる予定である。また,今年度実践した授業の成果を学会発表した。 一方,シミュレータによる演習授業に関しても,担当する研究分担者の所属教育機関及び学生の協力により,学会発表可能な成果を上げることができた。 またWebブラウザを用いた教育支援ツールの開発に関しては,構築したツールを用いて学生へ試用し,ツールの問題点の抽出を行った。 以上より,当初の予定通りに研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトは,大学の建築学科の初学者(学部1~2年生)を対象に,地域の気候特性を活かした「建築環境設計」の基本的な概念を学ぶ授業プログラム及びその教材とツールを開発することを目的としている。次年度は,本年度に開発・試行した授業プログラムを精査し,一つの授業プログラムとして完成を目指す。 研究分担者(髙田)の所属する熊本大学では,本年度2つの教育機関で試行した授業より得られた結果を元に,電子教材及び授業プログラムを改良し,再び熊本大学で授業を試行することで開発した授業プログラムの有効性を確認する予定である。具体的な改良点は,実測の導入を踏まえた電子教材及び授業プログラムの修正,紙媒体で開発した教材の電子化,評価シートの開発,である。更に,教員用の授業運営の副読本の作成も同時に行う予定である。 また研究分担者(円井)の所属する金沢工業大学では,来年度は引き続き正規の授業における授業プログラムの実践と改善を図り,本研究で開発した授業プログラムの有効性を確認する予定である。授業には,今年度開発した設計課題も加える予定である。 Webツールに関しては,研究分担者(中大窪)の所属する佐賀大学において 3年後期の学部生を対象にパイロット授業を行い,そこで得られたデータを元に修正・フィードバックし,ツールを完成させる予定である。また現在開発している電子教材に統合される方向性も見据え,タブレット型PCでの使用も想定した改良作業も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究担当者である梅干野は,最終年度(次年度)に電子教材の完成を見込み、その作業の一部を研究員に委託するため予算を計上したが,謝金に45万円かかることが判明した。そのため,研究の統括を目的とした日本各地への出張に必要な旅費を確保しつつ来年度に研究員を雇うための予算を確保するために,69万円を繰越金とした。 研究分担者である髙田は,最終年度(次年度)に電子教材を用いた授業の実践を予定しているため,通常のPC及びタブレット型PCの購入費として34万円を繰越金とした。研究分担者である円井は来年度も引き続き授業プログラムを多人数の学生に実践するため,パソコンやCADソフトを更新する必要があり,32万円を繰越金とした。研究分担者である中大窪は,開発したWebツールを実際の授業で運用するため,今年度に続き来年度も専用サーバを整備する必要があり,そのために40万円を繰越金とした。 研究担当者である梅干野は,研究統括を目的に出張に旅費36万円,電子教材作成の補助を研究員に委託し謝金45万円,物品及び資料の購入にその他19万円を計上している。 研究分担者である髙田は,電子教材を用いた授業を実践するためタブレット型PCの購入に物品40万円,学会への参加や出張に旅費15万円,授業補助の学生への謝金に10万円,資料購入及び論文投稿等の必要経費にその他18万円を計上している。研究分担者である円井は,データの収集や学生への謝金に15万円,授業の円滑な進行に向けて物品5万円,パソコンやCADソフトの購入に32万円を計上している。旅費は所属組織より提供されるため計上していない。研究分担者である中大窪は,前年度開発したWebツールの授業内運用のため専用サーバ整備に物品22万円,出張用に旅費12万円,授業運営の協力員への謝金に26万円,授業内の印刷物にその他6万円,それぞれ計上している。
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