研究課題/領域番号 |
24560712
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
鳴海 大典 横浜国立大学, 環境情報研究院, 准教授 (80314368)
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キーワード | 小売店舗 / エネルギー消費量 / 省エネルギー / 冷設什器 / 熱収支 / 負荷計算 / 消費者選好 / アンケート |
研究概要 |
1.冷設什器の熱負荷構造把握のための熱収支詳細計測:冷設什器のエネルギー消費予測ならびに空調エネルギー消費への影響評価を行なうことを目的として、前年度に引き続き、典型的な食品小売店舗を対象として、冷設什器内部の熱環境特性(熱・気流)や熱収支に関する詳細計測を行なった。什器形状や庫内設定温度、庫内商品の陳列状況、周辺環境条件(周囲空気温度)など、熱収支構造に影響を与える要因別に冷気漏れ量や熱交換量を定量化した。 2.冷設什器と冷凍機のエネルギー消費予測モデルの構築:冷設什器と冷凍機のエネルギー消費量を予測するための冷設什器熱負荷予測モデルを開発した。冷設什器の冷凍冷蔵負荷と冷気漏れ量(エントレインメント量)は、什器形状(開放多段型、開放セミ多段型、扉付閉鎖多段型、平台型など)や庫内温度(冷凍・冷蔵)、店舗条件(開店時・閉店時)別に整理した1の詳細計測データを基に評価した。本モデルの開発により、例えば開放多段型から扉付閉鎖多段型(リーチインタイプ)への変更に伴う冷気漏れ量の減少による冷設什器のエネルギー消費削減効果等を評価することが可能となった。 3.省エネルギー対策に関する消費者意識アンケート調査:店舗における省エネルギー対策については消費者受容への配慮が不可欠であることから、省エネルギー対策に関する消費者意識アンケート調査を実施した。前年度の評価結果から、省エネルギートップランナー店舗において、消費者は店舗の省エネルギー対策を概ね肯定的に評価していたことから、今年度は否定的な消費者影響が予想される飲料常温販売(飲料ケースの非冷化)に関して、購買意欲の低下の程度を明らかにした。また、得られた結果を基にして、省エネルギー対策実施に伴う電力料金削減と飲料販売本数の減少による売上げ収支についても検討を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.冷設什器の熱負荷構造把握のための熱収支詳細計測:冷設什器の熱収支計測に関しては、実稼働店舗の実運用時を対象に実施したが、時々刻々の利用状況の把握などが難しいことから解析上の困難を一部で生じていた。これに対応するために、本年度は什器メーカーの協力を得て環境制御実験室内で周囲条件を統制した上で計測を行うことを計画していたが、メーカー側の都合により実験室内での計測が実現できなかった。そのため今年度も引き続き現場計測を行ったが、計測の際には可能な限り周辺状況の把握に努めることとした。 2.冷設什器と冷凍機のエネルギー消費予測モデルの構築:予測モデルの構築に関しては、当初計画では冷設什器のエネルギー消費予測モデルと空調負荷計算モデルを連成し、冷設什器への対応が空調エネルギー消費量に与える影響を検討可能とすることを目標としていた。しかしながら、冷設什器の熱負荷評価と冷凍機のエネルギー消費特性評価に若干予想以上の時間を必要としたことから、年度内に空調負荷モデルとの連成解析を実施するには至らなかった。この点については、次年度に解析を行うものとする。 3.省エネルギー対策に関する消費者意識アンケート調査:アンケート調査に関しては、申請書段階では当初計画していない検討事項であったが、省エネ対策について消費者受容への配慮は重要であることや協力事業者からのニーズも高かったことから追加的に実施を行ったものである。飲料ケースの非冷対応のように一部の消費者が否定的に評価する対応についても、電力料金削減によりメリットがデメリット(販売本数の減少)を上回ることを示すなど、貴重な結果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度については主に以下の3つの項目について検討を予定している。 1.冷設什器と空調機器の相互影響を考慮したエネルギー消費予測モデルの構築:申請者らが既に開発した建物空調熱負荷予測モデルと昨年度に開発した冷設什器熱負荷予測モデルを連成計算することにより、冷設什器と空調機器の相互影響を評価可能とする店舗全体のエネルギー消費予測モデルの開発を行なう。このような連成計算モデルはまだ国内外の関連研究において開発された事例はなく、その意義は非常に大きいと考えられる。 2.食品小売店舗のエネルギー消費再現と省エネルギー対策の定量評価:開発したエネルギー消費予測モデルを用いて、様々な省エネルギー対策の効果について定量的な検討を行なう。ハード面での対策としては、低天井化や風除室の適正設計など建築躯体での対応、冷設エリアのゾーニングや除湿システムの採用など空調換気設備での対応、リーチインケースの採用やキャノピー照明化など冷設什器での対応、LED化や調光システムの採用など照明機器での対応など、空調・照明・冷凍冷蔵の各エネルギー消費量に与える相互影響が評価可能となる。ソフト面に関しては、空調設定温度の緩和や冷設什器の夜間非冷化などの対応が店舗全体のエネルギー消費を増加させる可能性も考えられることから、相互影響について本モデルを用いて定量的に評価する。 3.省エネルギーイノベーションモデル店舗の提案:各種省エネルギー対策の省エネルギー効果(場合によっては増エネルギーとなる可能性もある)に関する評価結果を基本情報として、その対応に掛かるコストや来客・従業員に与える影響などを総合的に判断した上で、省エネルギー対策に関する採用優先順位を決定すると共に、運用マニュアルの作成を試みる。
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