研究課題/領域番号 |
24560723
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
土川 忠浩 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (50180005)
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研究分担者 |
服部 託夢 広島工業大学, 生命学部, 助教 (80549220)
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キーワード | 温熱環境 / 障がい者 / 乳幼児 / 高齢者 / 車いす / ベビーカー / バリアフリー / ユニバーサルデザイン |
研究概要 |
本研究では、高齢者、障碍者、乳幼児などの体温調節機能の低下・欠如・未発達な人々(仮に「温熱環境弱者」と称することとする)に対して、都市・建築における温熱環境の視点から支援する方法等の検討を行っている。特に、頸損者・脊損者のように汗がかけないなど体温調節機能が欠如・低下すると、温熱環境によっては生命の危機にもなりかねないことがあり、その重要性は高い。また、このような技術・考え方は、障碍者のみならず高齢者・乳幼児、ひいては健常者の生活にも適用可能と考えられる。本年度は、昨年度の成果をもとに主に頸損者の体温調節に関する「温熱環境プロフィール」の検討を深化させるとともに、車いすやベビーカーに装着を想定した体温提示・予測システム開発に関する実験・検討を行った。 頸損者に対する体温調節に関する経験・対処等のヒアリング調査を行い、昨年度提案した「温熱環境プロフィール」の基礎的構造についてさらなる検討を加えた。結果として、温熱環境に起因する「熱的疲労」に対する課題が明らかになった。特に社会的支援を受けながら、職業を持つなどして自立生活している脊損・頸損者にとっては、「熱的疲労」は自己の体調管理の重要な要素である。このような「熱的疲労」に対して、都市・建築的な対処方法として、「温熱リカバリー空間(仮称)」が考えられる。 以上のような、「温熱環境プロフィール」構築と平行して、本研究では具体的な体温提示・予測システムの基礎的検討を行った。その装置には体温予測シミュレーションモデルの開発が必須であり、また、人体の深部温(体温)のモニタリング測定が不可欠である。深部温予測方法について、頸損者を対象とした被験者実験による再検証を行うとともに、皮膚からの熱流測定を追加し、深部温としての耳内温・舌下温との対応を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【頸損者・脊損者の体温調節機能の特性に関する検討】前年度に行った調査を基にその構造を検討した。温熱環境の人体に対する影響(例えば、うつ熱、低体温)についての頸損者・脊損者の理解は不十分で、単に特性把握のみならず、当事者および介助者に対する啓発的な情報提供方法の検討も必要であることの知見を得た。さらに、温熱環境に対する様々な要因、個人特性のみならず、特に「熱的疲労」が重要課題として明らかとなった。この観点はこれまで健常者に対する温熱環境のあり方でもあまり議論されてこなかったものである。本研究では、さらに将来的な対策として「温熱バリアフリー空間」の必要性を提案した。 【「温熱環境プロフィール」の検討】頸損者・脊損者の「温熱環境プロフィール」のあり方を検討し、その具体的な構造のための検討を行った。これまで提案されている健常者に対する全人的な温熱環境指標と併せて検討した。 【体温調節シミュレーションモデルための深部温測定と装置の検討】前年度までのシミュレーションモデル、支援システムの実用化を行うための試験を行った。頸損者ならびに健常者を対象に人工気候室実験を行って、深部体温モニタとして適切な部位の検討を行った。昨年度の測定項目に加えて、新たに舌下温との比較、皮膚熱流量との比較を行ってその有効性を検討した。また、シミュレーションにパラメタとして組み込むため、温熱環境条件(屋外空間の日射熱、照り返し熱、車いす・ベビーカーの日射投射面積率等)の簡易測定方法の開発・測定および有効性の実験を行った。さらに、車いす等の福祉機器や環境調整機器等との連携の技術的検討を行ったが、周辺温熱環境測定および提示装置への組み込みなどに課題が残った。
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今後の研究の推進方策 |
25年度に行った成果をもとに次のように発展させるとともに、研究のまとめを行う。 【1.温熱環境プロフィールの検討と活用の検討】前年度の成果を踏まえて、「温熱環境プロフィール」の構造把握と各種要因について、ヒアリング調査等を拡大し、その構造の特徴の把握に努める(質的分析手法による検討を含む)。プロフィールとして活用するための項目等の具体化を発展させる。 【2.体温調節シミュレーションモデルの開発と提示装置の試作検討】前年度までのシミュレーションモデルの改良を行う。さらに提示・支援装置の実用化のための、より簡易的・効果的な温熱環境測定方法の検討と測定ならびに試験を行う。特に深部体温のモニタリングは本研究の重点課題として浮上してきている。そのため、被験者実験(主として頸損者)を行って、深部体温予測方法の確立を検討するとともに、生活場面で試験を行い、実用化のための課題の抽出と改良を行う。さらに前年度の課題として残った提示装置の組み込みについて技術的検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する額が生じたのは、温熱環境測定装置(主として屋外での車いす・人体に対する温熱環境を測定するための自作開発の装置・現有)の改善(小型化)のために予定していた新型の小型熱流センサー(市販品・1本15,000円x10本を予定)の製造・納品が年度内に間に合わなかったためである。 次年度使用額は、当該年度の装置開発・改善にかかる予算計画(物品費)に組み入れ、センサー購入と装置改善のための消耗品等(自作のための材料等)と併せて使用する予定である。
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