タイでは1973 年に中低所得者層のための住宅供給・住環境整備を目的として住宅公団(National Housing Authority、以下NHA)が設立され、多様な住宅を、さまざまな住宅計画手法を用いて供給してきた。本研究では、2001 年タクシン政権期を代表する「ポピュリスト的事業」の一つである、NHA による低所得者向け規格分譲住宅事業(バーンウアアトーン)で供給された住宅について、統計データを入手し、全体像を明らかにした。さらに、バンコクおよび地方の集合住宅団地を対象として、住宅地および住戸計画、居住地管理の視点から実地調査を行った。要点は以下にまとめられる。 本事業には集合住宅、戸建て、二戸建て、長屋の4タイプがあり、事業数が多いのは集合住宅と戸建てである。集合住宅では規格化住戸が建設されるが、戸建ては約8割におよぶ都県で建設され、規格化されているものの住宅面積には幅があり、増改築も想定され、地域の状況に応じた住まいづくりが行える。多様なオープンスペースが組み込まれた住宅地計画により、居住者による柔軟な利用が可能であること、さらに緑地や施設は周辺近隣地域からも利用され、地域全体の居住環境の改善に貢献していること。NHAが建設してきた従来の住宅地と同様に、本事業で建設された住宅地においても住民組織が設けられ、さまざまな年間行事やコミュニティ活動が住宅地の共用空間を使って実施されている。これらは地方や住宅地の規模に関わらず開催されており活発なコミュニティ活動の一端を担っていること。個々に対応すべき課題はみられるものの、本事業が中低所得者層向け住宅供給を担い、居住環境の向上に果たした役割は大きく、居住地管理における取り組みや方法はタイのみならず日本の住宅地計画および管理においても示唆に富む。
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