研究課題/領域番号 |
24560739
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
藤岡 泰寛 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 准教授 (80322098)
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研究分担者 |
新井 信幸 東北工業大学, 工学部, 准教授 (20552409)
小杉 学 東北工業大学, ライフデザイン学部, 准教授 (30410856)
安武 敦子 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60366432)
原田 陽子 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00377475)
大原 一興 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 教授 (10194268)
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キーワード | 郊外住宅地 / 団地 / 高齢化 / 人口減少 / 空き家 / マネジメント / 近居 / 外出 |
研究概要 |
本年度は都市近郊・郊外エリアが直面する課題の構造把握を目的とした調査研究と、課題共有を目的とした地域間交流を行った。 まず、首都圏研究として、茅ヶ崎市における神奈川県下最大の郊外賃貸住宅団地第二期建替え事業に際し、第一期建て替え事業から継続する住民自治活動と連携した居場所構築(コミュニティカフェ・ガーデン)の取り組みを支援した。4年目の活動を迎えNPO法人化の検討を進めた。横浜市内で最も高齢化の進む旭区内の丘陵住宅団地において、前年度実施した賃貸街区における調査を分譲街区にも拡張し実施した。賃貸街区では12.3%にとどまる親族近居率が分譲街区では30.1%と約2.5倍の差が見られることなどが明らかとなった。繋がりをマネジメントする機能を既存ストックと結びつけていくことが重要であることなどを指摘した。隣接する保土ケ谷区内の丘陵住宅団地とその周辺地域では、行政・大学・地域の連携による廃校の跡地活用を契機としたまちづくり検討のなかで、長崎の斜面地居住に詳しい分担研究者(安武敦子)やNPO理事長などを招き丘陵地居住を考える地域シンポジウムを主催した。地域住民ら約90名が出席し、研究成果を広く還元するとともに、特に高齢期の居住課題について幅広く意見交換し住民交流を行った。 次に、地方都市研究として、長崎市においては、戦後に形成された斜面住宅地の変遷を整理するとともに、斜面地の市街化と空洞化のプロセスを事例的に明らかとした。福井市においては郊外ベッドタウンにおける空き区画化から複数区画利用に至る実態把握などを行った。また、仙台市においては仮設住宅から災害公営住宅へ分散入居するうえでのコミュニティ継承策について、仮設住宅自治会や、住民有志による検討グループとともに検討を進めた。集合住宅団地での居住経験がない住民も多く、首都圏郊外団地再生におけるコミュニティ継承策などの研究成果が参考となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は非コンパクトな区域における新しい計画概念構築とその一般化のための方法論構築にあり、各フィールドにおける具体的な課題把握と横断的な議論の両面の取り組みが必要とされる。2年度目は各フィールドにおける課題把握の進展がみられ、特に集合住宅団地を対象としていくつかの重要な比較軸が抽出された。たとえば地理的困難さを抱える丘陵住宅団地においては賃貸団地と分譲団地で親族近居率に大きな差が見られた。また、高齢期の居住において近居と外出行動(頻度や目的)との関係や住み続け意向との関係があることも示唆された。さらに同じ街区内のきわめて近い距離の近居が最も多かった。これらのことから、住宅地全体をツリー状のシステムとして構造化し中央や幹線道路沿いに施設を集約配置する当初の計画論だけでは今後行き詰まる可能性が高く、街区などの身近な単位においてたとえ小規模であっても多機能な拠点とサブシステムを構築していくことが重要であるといえる。 福井市における研究では複数区画利用が行われやすい条件の可能性として所有権移転のしやすさや宅地以外の用途の柔軟性などが示唆されている。長崎・横浜の地域間交流(住民交流、シンポジウム、事例研究など)からは、抱えている地理的状況には違いが見られるものの、住民を取り巻く多様な関係者間の連携・情報共有、およびそれらを専門家連携によって支援する二重三重の構造が孤立を防ぐために重要であること、車両アクセス困難区域において歩行空間を確保したり歩行支援を図っていくことが重要である等の横断的議論が行われた。高齢者や空き家の増加は地域資本の増加という側面も持つ。少子高齢化の進む郊外・近郊エリアにおいては特にこうした視点に立ち、新しいコミュニティモデル、空間モデルを構築していくことも重要である。建替えの続く大規模団地における高齢者雇用を視野に入れたNPO法人化の検討の動きも参考となろう。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の研究の推進方策としては、各フィールドにおける調査研究を継続しつつ、課題と成果を整理し方法論構築に向けた視点の整理・体系化作業に移ることが重要であると考えている。継続調査としては、集合住宅団地における近居世帯へのヒアリング調査、戸建て住宅団地を中心とした地域間比較調査などを予定している。これらの調査は地理的困難なエリアへの新規流入層の動機解明や、中心市街地と郊外との間の連動性解明などを通じて住宅地の持続的マネジメント策を考察することが主な目的であり、新しいコミュニティモデル、空間モデルを構築していくためにも重要な作業であると考えている。 なお、首都圏や地方都市における典型住宅地の空間変容(時間軸上の開発動向や空き家化、空き宅地化などの進行プロセス)を空間情報としても比較分析可能なもの(たとえば縮尺をそろえたマップなど)に加工していくことを考えている。 また、都市郊外・近郊エリアに残された緑農地や川などの自然資源と居住との関係をどのように構築しうるかについて、識者との意見交換を住民を交えて行う。児童数減少による廃校を契機として小学校の跡地利用モデルスタディを進めている地域では、丘陵地という地理的・地形的共通性を手がかりに従来の自治コミュニティ単位ではなく広域的な地域連携により豊かな自然環境や農資源を保全・継承し住環境の質を高めていこうという動きが生まれつつある。こうした広域的・包括的レベルからみたときの、空間(ゾーン)と機能(用途)との関係のあり方、郊外住宅地の持続的マネジメントのあり方、位置づけについても考察を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由としては、分担研究者によるヒアリング調査や住民参加型ワークショップが継続中であることなどが挙げられる。いずれも次年度も継続して取り組まれる前提で進められている調査研究であり、研究遂行上の問題はないものと考えている。 次年度に使用する予定の研究費(35,387円)については、年度をまたぐ調査研究にあてる。具体的には分担研究者が継続実施中のヒアリング調査のデータ入力謝金やワークショップデータ入力謝金等を予定している。いずれも次年度も継続して取り組まれる前提で進められた調査研究であり、研究遂行上の問題はないものと考えている。
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