本研究は開発途上国の基幹的都市問題である低所得者用住宅を対象として、既存政策制度の問題や低所得階層の生活実態調査から居住環境に関わる潜在的ニーズを抽出し、BOPによる計画・運営・コストの仕様等を検証することにより、持続的な住宅地の運営管理も含めたBOPモデルによる低所得者用住宅事業の可能性を検討・提案することである。 フィリピンを対象に調査を展開した結果、まず、従来の制度的枠組では公的補助の部分が大きく、BOPによる手法を適応したとしても住宅供給が促進されにくいことが分かった。次に住宅資材・建材に関しても選択の幅が小さいことに加えて小売店舗の圧倒的不足が明らかになった。BOPを展開する上では市場に最も近いところで販売をする必要があり、建材という性格上、空間的資源も含めたストックを構築する必要がある。また、低所得者用低層住宅で構築済みの中層以上の建築的ガイドラインが未整備であることが明らかになった。 さらに、BOP層では居住者自身による労働提供型住宅建設がマイクロクレジットよりニーズが高く、特に男性のスウェットエクイティに代表される建設への参加がキーポイントになることが分かった。住民組織が比較的密に構築されているフィリピンでは、BOP手法とこの労働提供型住宅建設の手法を組み合わせることで、効率の良い供給への可能性が開ける可能性が高い。このことが居住環境の包括的な質の向上に繋がることが期待される。 また、近年BOP層のインテリアデザインへの関心が極めて高いことが明らかになり、マーケットとしての可能性をさらに検討し、住宅供給手法と一体的に検証する必要がある。
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