研究課題/領域番号 |
24560752
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
吉川 徹 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (90211656)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 競合着地モデル / 離散選択モデル / 地域施設 / 公共施設 / 仮想都市 / 最適施設配置 / 移動距離 / ロジットモデル |
研究実績の概要 |
理論的検討の追加と実証研究の準備およびパイロットスタディを行った. 理論的検討については,昨年度末から今年度に掛けて重要な進展があり,研究開始時の想定よりも多様な地域施設について評価指標を定義する可能性が見いだされた.昨年度の成果より,小・中学校など,全員が必ず利用する,あるいはほぼ同じ確率で利用する施設については,施設までの移動距離の平均が施設の利便性の適切な指標となる.これらの施設については,建築物の撤去による利便性の減少は,それによる平均距離の増加によって測定できる.これに対して,地域公共施設には,必ずしも全員が利用しないものもある.たとえば,図書館,コミュニティセンターである.これらの施設では,建築物の撤去によって施設が遠くなった場合には,利用率が距離減衰によって低下する.社会全体で見た場合,この利用率の低下すなわち利用を諦める利用者が存在することと,利用者にとっての移動距離の増加が,ともに利便性の低下をもたらす.したがって,移動距離の増加だけを指標とすることは適切ではない.そこで,利用率の低下による利便性の低下を,移動距離と合算可能な形で測定する方法として,ロジットモデルの効用の確定項の期待値,すなわち期待効用に着目して,施設位置の変化による利用者の利便性の変化の指標として期待効用の差を用いる方法を定式化した. 上記に関連して,さらに下記の研究を行った.第一に,施設の利便性を移動距離で測定する根拠となる移動に伴う金銭,消費カロリーの負荷に着目して,それを最小化する住宅と施設の位置関係を理論的に検討した.第二に,施設までの移動距離を最小化する立体的都市形態について,一次元の仮想的な都市について分析した. 上記の結果を踏まえて,実証研究の準備を行い,特に消費カロリーの負荷最小化に関しては,パイロットスタディを行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たに見いだされた理論的検討が必要な課題に関して,重要な進展があり,研究開始時の想定よりも多様な地域施設について評価指標を定義する可能性がより確かなものとなった.まず,期待効用の差について解釈が可能であることが示された.また,期待効用の差と消費者余剰の関係について理論的に明らかにすることが可能になりつつある.さらに,金銭,消費カロリーの負荷に着目にした分析,施設までの移動距離を最小化する立体的都市形態についての研究成果も得られた.このうち後者については,査読付き論文として発表した. 一方で,これらを踏まえる必要が生じたため,実証研究とその成果発表,さらにそれらの普及を目指した活動は次年度に行うこととした.
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今後の研究の推進方策 |
理論的検討の結果として得られた,期待効用と消費者余剰の関係に関する知見に配慮しつつ,本研究課題の目的である,公共建築物の除却による利便性の低下に着目した公共建築物ストックの価値評価手法の提案を取りまとめる.合わせて,この手法を簡易に実行できるかどうかを確認するための実証研究を行う.この時,前年度に得られた理論的成果を踏まえて,実証研究の計画を立案する.理論的成果としては,距離減衰の有無に対応しうる評価指標を開発したことが挙げられるので,それを実証研究に反映させる.さらに本研究課題において解決すべき課題としては,効率的な近似解法の開発が挙げられる.これについては,日本都市計画学会などで従来から研究されている,地域間平均距離の精緻な近似解法を本研究課題に適用して計算の手間を削減するための検討を,特に実証研究のレベルで推進する.また,この検討にあたって,距離として実際の道路網を使用するかどうかを,計算の容易さを意識しながら,連携研究者の助言を得て整理する. また,これらの結果を広く普及させるための活動を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に実証研究を行う予定であったが,平成25年度末から26年度当初に,経済学における消費者余剰の概念を適用することによって,距離減衰する施設に関する理論的なブレークスルーが得られることが判明した.このため,理論的研究の補充を行い,日本建築学会大会にて発表した.これを受けて,実証研究を一部延期したために,それに必要となるデータ,機器の購入及び発表経費の一部に関して未使用額が生じた.このため,実証研究の延期分と発表準備を次年度に行うこととし,未使用額はその経費に充てることとした.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に取りまとめる価値評価手法について実証研究を行うため,必要なデータ,人件費,ソフトウェア,およびデータを保管する備品類の費用に使用する.合わせて,学会発表および結果を広く普及させるための活動に要する経費,すなわち,旅費,発表登録費,英訳費,媒体作成費等に使用する.
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