研究課題/領域番号 |
24560761
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岡田 智秀 日本大学, 理工学部, 准教授 (10307796)
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研究分担者 |
横内 憲久 日本大学, 理工学部, 教授 (30060172)
川田 佳子 (押田 佳子) 日本大学, 理工学部, 助教 (10465271)
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キーワード | まちづくり / 海岸防災 / 海岸環境保全 / ハワイ州 / 東日本大震災 / セットバック / 事前型復興まちづくり |
研究概要 |
本研究目的は、海岸構造物に極力依存しない新たな海岸まちづくり方策を導くために、その先進事例である米国ハワイ州の「海岸線セットバックルール」の運用実態とともに、日本国内の海岸管理および土地利用制度等の分析を通じて、日本型セットバックルールのあり方を考究するものである。 初年度(H24年度)では、セットバックルールの先進国である米国ハワイ州の実態調査とともに、巨大津波防潮堤の建設で議論が高まっている福島県いわき市において、セットバックルールに対する見解を問う住民・行政ヒアリング調査を実施した。 本年度(H25年度)は、待ったなしの状況で議論が動いている福島県いわき市沿岸部の全24地区を対象として、復興まちづくりと海岸構造物との関連およびセットバックルールのニーズを把握するための行政ヒアリング調査を展開した。その結果、全24地区のうち2地区は、住民の意向により海岸構造物建設を回避してソフト整備(津波避難計画)が実現した事例があり、別の1地区では砂浜幅を確保するために海岸構造物のセットバックが住民側から提案されたが土地利用制限からやむなく実現しなかった事例、逆に、合意形成前に個別に住宅再建が進んでしまったために海岸構造物を砂浜側に「前出し」させ、海岸侵食の懸念が高まっている事例などを捉えた。その結果、被災前にあらかじめ被害想定を行い、被災後の復興ビジョンを住民間で合意しておく「事前型地区別復興まちづくりビジョン」が重要となること、また、海岸構造物に依存しない海岸まちづくりとして日常利用にも供する津波・高潮避難地形成が必要となることなどを導いた。 さらに、都内で開催された東日本大震災の復興まちづくりに関するシンポジウムでも、「事前復興」の重要性が議論されたことからも、その意義は今後高まるものと考え、次年度は上述のビジョン構築に向けた研究活動を主に展開する所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、東日本大震災発生前に立てた25年度研究計画では、生物生息空間を確保するために防護ラインのセットバックを実現した大分県の事例を調査する予定であったが、東日本大震災以降、被災地では居住空間確保や津波防護を目的とした復興まちづくりの議論が活発化し、またその復興まちづくりを巡って海岸構造物の是非論も高まっていることから、前者よりも後者の実態を探ることが本研究目的に合致するとの認識により、地域に密着した実態調査が可能となった福島県いわき市において、当研究調査により海岸構造物をめぐる復興まちづくりの実態と今後の展望(事前型地区別復興まちづくりビジョン)を導くことができた。また、海岸構造物に依存しない海岸まちづくりとして、日常利用が可能な津波避難空間の整備の必要性も捉えられた。 以上を通じて、海岸まちづくりとは、海岸構造物という局所的な1点のみで海岸防災に対応すべきではなく、面的な地域計画として展開すべき必要性が具体的に明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
25年度研究では海岸構造物建設をめぐり議論が活発化している国内(福島県いわき市)を中心とした調査研究を展開したが、次年度はセットバックルール先進事例である米国ハワイ州や国内事例を対象として、24年度調査で課題となっていた事項(以下①、②)と25年度調査で新たに検討が必要なった事項(以下③~⑤)を調査研究する所存である。 ①ハワイ州(ハワイ島)の津波被災地のセットバック事例と津波メモリアルパーク整備の 運用実態把握/②昨年度中にセットバックルール改正で実現したセットバックルールと減災建築デザインルールの融合化の実態把握/③マウイ島の「事前型セットバックルール」(予めリザーブ用地を設け、被災後にセットバックを実施する計画)の合意形成プロセスの把握/④国内の事前型復興まちづくり構築に資する事例として、静岡県の津波発生時の地区内ロールプレイ活動の実態把握/⑤国内(和歌山県、静岡県)に現存する、日常利用が可能で地域コミュニティ形成にも資 する津波避難空間整備事例の実態調査 なお、以上の①~⑤は膨大な調査となることから、日程や予算の関係から年度内の旅程で調査実施が困難である場合、次年度調査事項として分割して実施することも検討していることを付記したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度調査では、主に情報が目まぐるしく変化していく東日本大震災の被災地の実態把握に重点を置いたため、海外渡航費を生じさせなかったが、26年度は海外調査を実施する予定であることから相当額の旅費を確保するため。 ①ハワイ州(オアフ島、ハワイ島、カウアイ島、マウイ島)調査=600,000円/②東日本大震災被災地(福島県いわき市)の海岸構造物建設関連の実態調査=50,000円/③国内の事前復興関連の実態調査(静岡県)=30,000円/④海岸構造物に依存しない海岸まちづくりの具体策としての津波・高潮避難空間の整備事例調査(和歌山県、静岡県)=70,000円/⑤その他雑費=50、000円等として使用予定。
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