研究実績の概要 |
歴史的建造物は、修理を繰り返すことで長期利用を可能にしてきた。中でも約1,300年前に建立した法隆寺が現存するように、寺院本堂は用途や利用目的が基本的に変わらないことから長期の利用が期待され、また古から利用もされてきた。かつての日本では古材を転用しながら建物を使い、修理や移築をすることで技術の継承と蓄積を行い、古い建物を遺すことで先人の想いを受け継いできた。良い物を造り長く大切に使う慣習は日本人の育んだ文化の表れとも言え、日本の伝統的な建築を代表する寺院本堂は地域の景観資源ともなっている。腐朽部材の交換が可能なこと、修理を通して劣化に繋がる知見を得たことも伝統的な木造本堂の永続的な使用に繋がったと考えられる。近年は環境問題の解決やLCC削減に向け、建造物にも長寿命化が期待され、本堂を長期利用する建築文化は環境面からも見直される時代に変わりつつある。 一方、建築の近代化に伴い1960年から70年代頃まで非木造本堂が全国的に普及した反動で、木造本堂の造営機会と堂宮大工の減少を招き、修理をせずに構造上の問題を放置した古い本堂が各地でみられるようになった。木造の寺社建築の減少は技術者の技量低下にも繋がる等、古い本堂を長期利用する為の環境は近年著しく変化した。修理を施してできるだけ長く使う非建替型の現本堂は長期利用の結果、将来文化財となる可能性もあり、これらは保存を目的とした修理となるが、中には既に建替えられた地域もみられる。 本研究では建築が近代化する以前から存在し、多くの場合に長期の利用が期待される国指定文化財を除く全国の寺院本堂を対象とし、住職へのアンケート調査や現地調査を通じて本堂の建替えや使用期間、構造上の問題等から長期利用に与える要因を明らかにした。
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