研究課題/領域番号 |
24560784
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
足立 裕司 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60116184)
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キーワード | アーツ・アンド・クラフツ運動 / 武田五一 / 世紀転換期 / アール・ヌーヴォー / 中世主義 / ウィーン分離派 / グラスゴー派 / 古建築保存協会 |
研究概要 |
世紀転換期に英国に留学した武田五一の活動におけるイギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動からの影響に着目しながら考察を重ね、留学先で訪れた場所やアーツ・アンド・クラフツ運動の主要メンバーの活動の跡を現地で確認することによりその関係が明らかとなってきた。従来見過ごされてきたモリスの活動がW.クレインやL.デイ、建築家C.F.A.ヴォイジーなどの後継者を通じて武田五一に間接的に理解されるようになったことが確認された。その成果は今年度の日本建築学会近畿支部の研究報告に発表している。今後、この作業を引き継ぎながら、イギリスの工芸運動の最終段階となる1900年前後の状況を把握するとともに、新しい造形の息吹として吸収することになったグラスゴー博覧会とグラスゴー派の資料収集へと今年度は展開していく予定である。今後、やはりモリスの影響下で設立された古建築保存協会の活動における中世主義の主張や建築表現での中世リヴァイバリズムの表現に留意しながら、武田五一の建築表現を再評価する必要がある事が明らかとなった。つまりこれまで古典主義の展開として捉えてきたアール・ヌーヴォーの後期現象であるウィーン分離派をアーツ・アンド・クラフツ運動からの展開としても捉える必要があることが明らかとなった。 今年度は現地での調査を通じて、第二次の渡航時の目的となった議院建築調査地であるブダペストやブリュッセルでの関心についても明らかにしていきたい。 他方、日本への影響については、アーツ・アンド・クラフツ運動を紹介した建築関連資料だけでは不十分であることが明らかとなってきたことから、より広く文学界の資料なども含めた精査により、地域主義的な建築観が日本的伝統への回帰とどのように関係しているのかを明らかにすることができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
武田五一が第一回渡航時に訪れたロンドンとその近郊とパリを中心として彼の関心を探ることができ、特にロンドンを中心にアーツ・アンド・クラフツ運動の詳細とイギリスの中世リヴァイバリズムの建築についての資料収集を行うことができたことにより、これまで古典主義の延長でしか捉えていなかった日本の第二世代の建築家たちの理解において、ウィーンからの直接的な影響だけでなくアーツ・アンド・クラフツ運動の影響が大きいことが明らかにできたと考える。また、これらの知見を元にして、武田五一の関心を特定するとともに、日本の建築界では最も早い時期に住宅、工芸の総合を目指した彼の建築思想の一端を明らかにすることができたことから研究目標の過半は達成することができたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
すでに過半の作業を行っている武田五一旧蔵品についてのデジタル資料化による精査を終了させると同時に、アーツ・アンド・クラフツ運動と関連する資料を整理するとともに、現地での資料収集による成果との比較により、アーツ・アンド・クラフツ運動からの具体的な影響関係を考察する。具体的には、神戸大学に保管されていながらこれまで大学図書一般にまぎれていた武田五一所蔵図書の確定ができたことにより、より詳細な影響関係が把握できると考えている。その成果を踏まえて、武田五一の建築理念を明らかにするだけでなく、日本の建築界への影響についても検討する予定である。 今後彼の関心を大きく変えることになったグラスゴー、ウィーンなどの諸都市での関心を特定することにも努力したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度においては海外、特にイギリスとの関係について資料整理を行ったが、資料整理に手間取ったことと、海外訪問先とのコンタクトが取れなかったことにより、海外調査費用を繰り越すこととなった。本年度はほぼ当初の計画通り海外調査他の予算を執行できたが、初年度の海外調査費の繰り越し分までは消化できず、次年度に持ち越すことになった。 次年度は最終年度であり、活動の自由が確保できていることから、本科学研究費の研究のエフォートを十分にとって研究を推進する予定である。具体的には3回程度の海外調査と物品では高性能のグラフィック機能をもったパソコンを購入予定であることから、予定している予算の執行は可能である。
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