アーツ・アンド・クラフツ運動(以後、A&C運動と略)の日本への影響はこれまであまり俎上に上がることはなかった。本研究では、当時の英国に留学していた武田五一の活動に着目し、その影響関係を検討することを中心としてきた。まず、当時の時代状況を踏まえながら広く国内外の資料について悉皆調査を行った。一昨年以来、本学で所蔵している武田五一の全旧贓品ついてのより詳細な調査もその一貫である。 その結果、歴史的にはイギリス本国の研究者でもあまり関心を払ってこなかったA&C運動に関連する建築家や工芸家への関心や交流関係が明らかとなった。また、当時のスケッチや家具等のカタログ、訪れた場所の特定などを行うことによって、少なくとも武田五一は、従来の研究では全体的に捉えられてきたA&C運動の活動を、個々別々ながら理解していたことが明らかとなった。例えば、当時のノートに記されたGodfrey Blountという人物への関心はその好例である。イギリスでの調査を含めて解明できたことは、彼は広範にわたるA&C運動のなかでも、いち早く農民芸術に関心を持った人物であり、日本で民芸運動や民家に関心を持ち始める大正末期よりも20年以上前から武田五一は民家、民芸に関心をもち、研究していたことが判明した。この他、本年度の研究では、断片的な対象を辿ることにより、彼がウィーン分離派等、その後の潮流をA&C運動に発するものとして捉えていることも明らかとなった。 本研究を通じて、この時代をアール・ヌーヴォーの影響のみで捉える視点に対し、日本でもA&C運動から考察する必要があることを指摘できたと思われる。A&C運動の影響は住宅という対象が建築家の作品の中心課題となっていくことにも現れており、A&C運動と日本とを結びつけた人物としてJ.コンドルの関与も明かとなった。彼を通じてもたらされた日本の建築家への影響も今後検討する必要がある。
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