研究課題/領域番号 |
24560785
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
谷 直樹 大阪市立大学, 生活科学研究科, 客員教授 (40159025)
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キーワード | 近世建築史 / 大工頭 / 中井家 / 大工頭中井家関係資料 / 指図 / 公儀作事 / 城作事 |
研究概要 |
大工頭中井家は、江戸時代に五畿内・近江6カ国の大工を支配し、同国内における公儀造営の設計・施工を家職としており、その研究は近世建築史の重要なテーマである。本研究では中井家所蔵資料(中井正知氏蔵)7,567点(内5,195点が「大工頭中井家関係資料」として国指定重要文化財)をもとに、中井家歴代の事績をまとめた『新・中井家系譜』を編纂し、近世における上方の建築界の全体像を提示することを目的としている。併せて、未公開の中井家所蔵資料の公開環境を整備し、中井家研究の総合的な発展に寄与したい。 【A】中井家所蔵資料の公開環境の整備;平成25年度は、文書(諸家の書状)の写真プリント、及びこの間に修理が完成した指図類の写真撮影を実施した。さらに、中井家所蔵の指図をもとに江戸城、二条城、名古屋城の天守の復元図を作成した。 【B】中井家歴代の事績をまとめた『新・中井家系譜』の編纂;中井家文書を基礎資料とし、当時の一次資料を渉猟して、歴代当主の事績、御用作事の様子、配下の棟梁衆の仕事、6か国大工組の動向などを考察するため、関係文書の読みと現代語訳を作成した。 具体的に見ると、前年度に続く時代として江戸時代中期の「中井役所の時代(享保~嘉永期)」を取り上げ、中井正豊(4代・1682~1735)、中井嘉基(5代・1709~1750)、中井正武(6代・1734~1788)、中井正紀(7代・1768~1818)、中井正平(8代・1785~1849)の業績をまとめ、再評価を行った。とくに、4代正豊が、大坂城大工の山村家から中井家を相続したことや、7代正紀の寛政度内裏造営などの史料を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【A】中井家所蔵資料の公開 平成25年度は、中井家関係資料のうち、城郭と寺社関係の指図類(江戸城・二条城・h方廣寺・清水寺・北野天満宮など)の修理を実施したため、その監修を行い、修理が完成した指図の写真撮影、プリントを作成した。また中井家文書(諸家の書状)の写真プリントを作成したが、ラベルの貼付は所有者の承諾が取れなかったので未実施である。また、大阪市立住まいのミュージアムの企画展として、「中井家伝来茶室起こし絵図」展を開催し(開催時期は前年度から今年度にまたがる)、関係資料の一部を一般公開した。 【B】中井家歴代の事績をまとめた『新・中井家系譜』の編纂 中井家が作事に関与した城郭や社寺のうち、遠隔地に所在する江戸城、名古屋城、日光東照宮、世良田東照宮の遺構の実地調査を行い、宮内庁書陵部や都立中央図書館で関係資料を収集した。また、江戸城、二条城、名古屋城の天守の復元図を指図を元に作成した。さらに、③中井家役所の時代(江戸中・後期)の資料検索を行い、内裏作事に関しては収集したが、社寺作事の資料検索は時間の制約で課題として残った。 これらの総括から「やや遅れている」との自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
課題【A】「中井家所蔵資料の公開」については、写真プリントの作成を進め、課題【B】「中井家歴代の事績をまとめた『新・中井家系譜』の編纂」のための資料検索を行いたい。 本年度は研究の最終年度に当たるため、中井家所蔵資料(中井正知氏蔵)7,567点(内5,195点が「大工頭中井家関係資料」として国指定重要文化財)をもとにして中井家歴代の事績をまとめた『新・中井家系譜』を編纂し、近世における上方の建築界の全体像を提示することを目的としたい。併せて中井家所蔵資料の公開環境を整備し、中井家研究の総合的な発展に寄与したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
①退職によって研究環境が大きく変化し、その整備に時間がかかり、全体の計画に遅れを生じた。 ②中井家関連資料の中核をなす指図類の一部の破損が進み、平成25年度から3年計画で修理を行うことになり、その準備や技術対応に時間がかかった。 【A】中井家資料の公開:中井家資料のうち書画・器物類の写真プリントを作成する。また資料公開の一環として、大阪市立住まいのミュージアムにおいて、企画展として「もうひとつの大坂の陣・大工頭中井家の仕事―世界遺産をつくった大工棟梁(III)―」(仮称)を実施したい。これは、中井家文書から、德川方と豊臣方の両方の武将から中井家に宛てられた書状(板倉勝重、片桐且元、福島正則、大野治長、古田織部など)や、大坂城や方廣寺関係の指図を展観する予定である。 【B】中井家歴代の事績をまとめた『新・中井家系譜』の編纂:「中井役所の解体期(幕末期)」では、9代の正路(1815~61)が担当した安政度内裏を取り上げ、次いで10代の正居(1835~1900)の代に明治維新に遭遇し、大工頭の解任と中井役所の解散にどのように対処したのかを検討する。これまでの研究を総合して『新・中井家系譜』をまとめたい。
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