研究課題/領域番号 |
24560787
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | ものつくり大学 |
研究代表者 |
佐々木 昌孝 ものつくり大学, 技能工芸学部, 講師 (30367049)
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研究分担者 |
溝口 明則 名城大学, 理工学部, 教授 (20297336)
小岩 正樹 早稲田大学, 付置研究所, 助教 (20434285)
中川 武 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30063770)
河津 優司 武蔵野大学, 環境学部, 教授 (50249041)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 木割書 / 木砕之注文 / 大工 / 職人 / 用語 |
研究概要 |
本研究は以下の2つを主目的とするものである。一に、中世から近世にかけて著された大工技術書のうち古い事例である初期大工技術書を包括的に収集した上で読解・口語訳を検討し、そこに記述されている特殊な語句の意味を分析した上で用例集を作成する。また、それら作業を通して、建築技術史・生産史の観点から、口伝とされてきた職人用語が言語化される過程と結果の歴史的な意味を解明する。 初年次の平成24年度は、用語集作成と研究のための基礎的データを整備することを目的と位置づけ、本課題採択前に基本的な読解を一通り終えた『木砕之注文』のほか初期大工技術書の用語的特徴を抽出して、各資料の比較読解を行う計画であったが、計画した作業に着手し実施していくなかで、本課題において基礎資料となる『木砕之注文』の用語を集中的に分析して、基本となる用語の分類作業を行う必要性が発生した。そこで、すでに翻刻・口語訳・図案化を終えている『木砕之注文』について、そこに記されている大工用語と解釈できる語彙を分類し、その上で、それらの語彙を他の文献から抽出する作業に着手した。具体的には、『木砕之注文』で使用されている語彙を「数と単位の言語表現」「寸法指定時の部分呼称」「面と免」「組物の各部呼称」「その他建築部材の呼称」「垂木割り付けに関する用語」「その他技法や操作に関する呼称」「建築種別固有の用語」などに分類定義し、他文献に同じ用語が使用される場面を精査するという作業に取りかかった。 また、本研究の骨子の一つである現役の大工職人や研究者へのインタビューについては、二年次からの実施に向け、候補者の選定を用語の分析結果を鑑みながら並行して着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
複数の初期大工技術書を比較考察する作業を実施していくなかで、本課題の基礎資料となる『木砕之注文』の用語の分類を定義し、異なる表現で同義となる用語の検証を行うなどの集中的作業の必要性が発生した。そこで、すでに翻刻・口語訳・図案化を終えている『木砕之注文』で使用されている語彙の分類作業を行うため、研究代表者ならびに分担者、当初から予定されていた研究協力者に加えて、学生からの研究協力者を募り、作業に着手した。 作業の大枠は、『木砕之注文』のほか初期大工技術書全般で認められる語彙の特徴・傾向を考察し、それらを「数と単位の言語表現」「寸法指定時の部分呼称」「面と免」「組物の各部呼称」「その他建築部材の呼称」「垂木割り付けに関する用語」「その他技法や操作に関する呼称」「建築種別固有の用語」などに分類・定義した上で、各資料の中で同じ用語が繰り返し使用される場面を精査するというものであった。この作業は、平成25年度に継続されることとなった。その経緯を受けて、研究実施期間の最終年次にあたる平成26年度までに当初計画されていた作業を滞りなく終えるため、当初より計画されていた職人への聞き取り調査や本課題の公開を目的とした書籍刊行のための作業計画をあらためて作成し、資料から語彙を抽出する作業を円滑に進めるための研究協力者を増員する方針を決めた。現役の大工職人への聞き取り調査については、資料の分析結果をふまえながら、対象者を必要に応じて研究者にまでひろげることとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、初期大工技術書に記されているすべての技術的な語彙を収録した用例集をまとめ、刊行することを目指すものである。本課題で取り扱っている初期大工技術書を研究するため、研究代表者と研究分担者を含むメンバーは長年にわたる定期研究会を実施しており、平成25年2月、本課題作業の一部もその内容に反映された書籍『木砕之注文』を刊行した。今後の研究期間では、初期大工技術書各書の内容を比較分析しながら、特徴的な語彙を選定しつつ、随時、それらに解釈を加えていく。また、これら基礎作業と並行しながら、専門用語が表す技法が遺構にどのように現れてくるかの照合、そして木割扱うことに関連する職人や研究者へのインタビューを行う段階へと進む計画である。大工の難解な職人用語の意味を理解するためには相応の分析が不可欠であり、この作業自体が本研究の要となることから、この大工技術の言語化に関する考察の成果は、適切に、学界に発表していく計画である。 上記手順を研究対象としたすべての初期大工技術書に見について行った後、最終的な目標であるところの用例集の作成に着手する。具体的には、各技術書に記されている技術的な語彙を収録した用例を原稿化し、語句の解説に用いる遺構や解説図版の選定・作成作業も併せて行う。レファレンスツールは公開され多くの研究者に利用されなければ意味がない。そのため、完成した用例集を出版という形で公開することを目指し、また 用例集の作成を通して、元々口伝されていた技術や工作の方法を文字で書き表す(言語化する)行為、いわば《暗黙知》を《形式知》として表現してきた姿を明らかにすることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究活動期間の二年次にあたる平成25年度は、初年次に着手した用語の抽出と分析作業を継続し、遺構や別史料を援用しながら比較検討を行い、そこに記されている語句の意味を明らかにしていく。作業には研究代表者ならびに研究分担者の研究機関に所属する若手研究者や学生を適宜当たらせながら、可能な限り網羅的に抽出作業を取りまとめることとなる。また、用例集に収録される語彙の説明に遺構の写真や図解も併せて掲載する計画のため、用語抽出作業を含めた作業担当学生への人件費が発生する。その上で、各大工技術書に記されている技術的な語句を収録した用例集の原稿執筆に向けた中間レポートを内部資料として作成し、その成果の一部を日本建築学会の支部報告等で発表する計画であるため、日本建築学会への発表にかかる必要経費も本研究費から支出される予定である。 平成25年度は、各大工技術書から抽出された用語の意味内容を本格的に特定する作業にも取りかかる。初期大工技術書で使用される専門用語は複雑な概念を簡単な言葉一つで表現している場合があり、その復元は容易ではない。複数の大工技術書や実際の遺構と比較することでその真意に迫ることができると考えるが、それと同時に、現代の用語との差異を明確にするため、現代の大工職人へのインタビュー を通して職人用語への知見を広め、用例集に付す解説や大工技術の言語化に関する研究の充実を図る必要がある。そこで、現役の大工職人への聞き取り調査を計画通り実施し、必要があれば関連分野の研究者へのヒアリングも実施することとなる。そのため、聞き取り調査のための旅費ならびにインタビューへの協力謝金を研究費より形状する計画である。
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