過去2年間の研究内容やデータの整理を行うのと並行して、研究対象のフィンランドの教会建築で現地視察・調査が未実施だったものを今年度に行った。当初に計画した10の教会のうちで未実施たった6の調査をめざしたが、研究の方向性を考えて一部変更を加えた。具体的には、昨年度までに実施済みのヘルシンキ・テーレ地区の教会、タンペレのカレヴァ教会、ヘルシンキのテンペリアウキオ教会、ヘルシンキ・ミュールマキ地区の教会の4に加えて、今回トゥルクの聖ミカエル教会、カンノンコスキの教会、トゥルク公共墓地の復活礼拝堂、イマトラのヴオクセンニスカの教会、オタニエミ学生村の礼拝堂について調査を実施した。一方でナッキラの教会については調査を中止し、代わって当初計画になかったタンペレの大聖堂、ヘルシンキ・カッリオ地区の教会、ヘルシンキ・カンピ地区の礼拝堂について、調査を追加した。 こうした調査データの補充を行うとともに、今年度は最終的な成果のとりまとめ作業も行った。上記の調査対象の変更によって、取り上げる建築家のバランスよりも作品の重要度をより重視した内容となった。また、北欧モダニズム期をその前後の時期(ナショナル・ロマンティシズム期や現代)と関連づけて捉える方向性が固まった。結果的に、大きな「北欧建築史」の存在を想定して、その一部をなすものとして北欧モダニズムを位置づけて、その建築史的な意義を問う研究上の視点を確立した。また、建築家の側からのデザイン上の意図ばかりでなく、礼拝やその他の目的で教会を訪れた人々(使う側)の意識も重視した研究を進めることになった。フィンランドでは、歴史を通じて教会建築が宗教的な役割を果たすばかりでなく、より広汎な意味を持った社会的な施設となっていることを見定めることができた。
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