本研究は、イタリアの三都市(シエナ、フィレンツェ、ローマ)を対象として、中世後期から近世(ルネサンス・バロック)にかけての街路空間の変容の過程と背景を明らかにすることを目的としており、平成26年度は、前年度に引き続きファサードと街路空間の様態を調査分析するとともに、成果の一部を学会等において報告した。 シエナについては、ルネサンス期のパラッツォを対象として、入市式や聖体祭などの行列の経路上に立地するパラッツォのファサードの素材・仕上げ・扉開口形状による類型化を行った。また、シエナの通りの整備を管轄した行政機関Viariiと15世紀半ばに設立され主として審美的評価を行ったUfficiali sopra all’Ornatoに関する先行研究を参照しながら、個人所有のパラッツォのファサードに関する行政の介入について考察した。 フィレンツェについては、中世後期からルネサンス期にかけて建設された26件のパラッツォを対象としてファサードの構成要素によるパラッツォの類型化に関する補足調査を行い、その分布状況について、1515年と1565年の2つの入市式のルートとの相関性ならびに1427年のカタスト(不動産登記台帳)に現れるゴンファローネ(地区)ごとの経済状況との対応関係を考察した。 ローマの街路空間については、フィレンツェの影響を受けたファサードとローマ固有の構成要素(十字型窓枠など)による類型化と共に扉開口の分布状況を現地調査に基づいてデータベース化し、中世来の巡礼の通りと近世に開通した街路空間(ペレグリーノ通りとジュリア通り)を比較することで、近世ローマの都市空間の変容を分析した。 本研究では、街路に現れる中世から近世にかけての都市空間の変容について3都市を横断的に検証し、フィレンツェの影響を受けたファサードのシエナ及びローマにおける敷衍とそれに伴う街路空間の変質を明らかにした。
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