研究課題/領域番号 |
24560795
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都文教短期大学 |
研究代表者 |
山田 智子 京都文教短期大学, その他部局等, 教授 (60310637)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 日本近代建築史 / 寄宿舎 / 家庭寮 / 繊維工場 |
研究概要 |
24年度(初年度)は主に資料収集に集中し、4件の会社について以下のような成果を得た。 1.郡是製絲株式會社に関しては、大正末期から昭和50年代初頭までに新築・移築・増築した女子寮舎、浴場、便所、女子寮事務所、家庭寮、学校(教室)の設計資料を得た。江南工場には同社初のRC造女子寮舎と家庭寮・診療所が残っており、現地調査を行った。また、家庭寮の形成過程と建築構成を分析し、目下のところ以下の結論を導き出せた。(1)昭和15年頃、青年学校に影響を受けて家庭寮が成立。(2)昭和30年代までは、家庭寮は木造平屋建て瓦葺の和風住宅で、続き間を基本とし、幅1間以上の床の間を設置。(3)昭和40年代になると家庭寮に調理場や割烹教室なども付設。付設しないものはDKや寝室(2段ベッド付き)のある中流社宅の平面型へと発展。 2.東洋紡績株式會社に関しては、建築資料が乏しいため、工場と従業員の家庭との連絡を目的に発行された機関誌『東紡時報』『東洋家庭時報』に着目した。同誌は大正11年~昭和19年に発行され、最盛期の同社の女子労働者の生活と寄宿舎の建築様式を知ることができる点で貴重である。24年度は、同誌に掲載された寄宿舎での生活と教育施設及びそれに連動した建築に関する記事(昭和3年まで)を抽出して整理した。その作業において、自修寮での少人数の自炊生活、季節感のある寄宿舎や食堂での催し、衛生設備器具の進化、宗派別に分かれた寄宿舎での行事、関東大震災後の建物補強等、生活実感のある建築空間の様子を捉えることができた。 3.帝國製麻株式會社についても建築資料は乏しく、わずかであるが戦後の工場配置図等の資料を得た。 4.丹後のちりめん工場の小規模な寄宿舎の実測調査を行い、復原平面図・立面図を作成した。他に昭和2年の丹後震災後の機業場復興過程における史料調査も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
郡是製絲株式會社では、膨大な設計資料を入手できた。これらの資料は、これまで未発見のものであり、本工場、誠修学院、郡是病院と長井・宮津・梁瀬・久世・美濃・江原・津山・倉吉・福知山・養父・玉糸・鴻巣・江南・守山・前橋の各工場にわたり、かつ大量であることから、時代・地域・建物種別に細かく分析できると期待される。まだ閲覧できていない資料も少しあるが、25年度中には全ての資料調査を終える目処はついたので、今後データを抽出・分析し、考察して結論を導き出す時間を充分にとることができる。 東洋紡績株式會社には建築資料が乏しいので、文献調査がメインになるが、幸い社史編纂室のご協力をいただけたので、前述の機関誌の他に、同社の労務管理に関する史料や研究論文を効率よく収集できた。 以上のことから、目的を達成するのに必要な資料を期間内に充分に収集できるとの確信から、研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでどおり、各企業を訪問調査し資料収集を行なう。必要があれば実測調査も行う。しかし、これまでの調査の結果、実際に寄宿舎・教育施設・家庭寮の遺構が残る工場は当初考えていた数より少ないことが判明した。今後は、現存しない施設の設計図や各種申請書類等の建築資料や文献史料について、郡是製絲以外の工場でもできるかぎり収集できるように努める。また、当初計画した大資本による工場だけでなく、丹後のちりめん工場のような中小繊維工場の寄宿舎についても資料収集を行い、規模・設備・平面・構造の面から分析し、大資本による工場との比較研究も行う予定である。 郡是製絲の資料データから、大正末期から昭和50年代に至るまでの寄宿舎・家庭寮・学校(教室)について、配置、平面計画、設備、構造形式についての類型化を行い、年代順に並べ、平面形と設備の変遷や地域的な傾向の分析を行う。 東洋紡績については、引き続き機関誌の建築と住生活関連記事の抽出を行い、家庭寮・寄宿舎・行事・設備・教育制度別に分類して、特徴を見出したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰り越された次年度使用額8,872円は複写費用にあてられる。次年度全体の研究費は、おおむねCADソフト関連の物品費、各企業を訪問調査するための旅費、実測調査・製図及びデータ整理に要する人件費、大判の設計図面を複写する費用にあてる予定である。
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